「映画ポスターとは違うが」プリデスティネーション Kさんの映画レビュー(感想・評価)
映画ポスターとは違うが
爆弾魔の阻止が物語の中心であることを期待していると肩透かしを食うかもしれない。物語の主軸はサスペンスではなく人間ドラマであり、いわゆる『男性』がバーテンダーに打ち明けるような、『女性』が雑誌に投稿するような、不幸な身の上話を壮大にしたものであるが、それがタイムリープのからくりを絡めて実に臨場感のあるドラマに仕立てられており、ジェーンの、ジョンの、バーテンダーの、その時々の人生の悲しみを伝えている。
タイムリープのからくりはハインラインの原作を忠実になぞっているが、爆弾魔の存在は映画だけのもので、原作の骨組みを効果的に膨らませた物語になっており、冒頭シーンの見せ方の妙に始まり、エンディングに時系列に沿った回想シーンを入れる親切さもあり、映画として素晴らしい完成度である。また俳優達の静かな表情の演技も素晴らしく、これがなければ物語の深みは得られず、ただの身の上話で終わっていたであろう。
映画ポスターの『最後の任務は爆弾魔の阻止』というフレーズは違うと思うのだが、それもタイムリープのからくりの驚きを増すための演出と思えば許せなくもない。
所々にある時代を超えた邂逅のシーンがとても切ない。ジェーンとジョンの出会いのシーン。バーでの長い語らい。また映画の後半に冒頭シーンの再現として出てくる爆弾魔に迫る場面で、バーテンダーがジョンに装置を抱かせ、お互いに無言で目を合わせるのが印象的で、鎖を断ち切ることができない宿命を体現しているように感じた。
バーテンダーに扮し最後の任務を全うする主人公は、若い頃と違い、人の痛みを理解し寄り添うことのできる人物となっているのがまた印象的だ。人生を壊した男を恨み、同時に愛し、会いたいが会うことができないという孤独の寂しさまで滲ませる。素晴らしい人生賛歌であった。