「種明かしの快感と混乱が同時に訪れる快作。」プリデスティネーション lylycoさんの映画レビュー(感想・評価)
種明かしの快感と混乱が同時に訪れる快作。
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この映画、超弩級のパラドクスを前提にしたワンアイデアの解りやすさと、考えれば考えるほど解らなくなる複雑さが奇妙に同居している。
以降、何を書くにもネタバレは避けられないので、これから観るかもしれない向きにはご注意を。さて、この一文がすでに序盤の驚きをひとつダメにしてしまうのだけれど、本作はほとんどイーサン・ホークとサラ・スヌークのふたり芝居で成り立っている。しかも、どちらも相当な難役だ。前半のほとんどがバーでの会話劇で、回想シーンくらいしか動きがない。SF映画らしいガジェットもない。なのに、あれよあれよと引き込まれてしまう。
ぼくは知らずに観たのだけれど、原作はかの有名なハインラインだという。観終わって即、amazonでポチった。中短編集の一篇で30ページほどしかない。骨子はほぼ原作のままなのだけれど、この小説には映像化する上でかなり深刻な問題がある。バーでふたりが出会うシーンがそもそも撮れない。そこで導入されたのがフィズル・ボマーという爆弾魔の存在で、問題を解決するだけでなく、映画オリジナルのさらに皮肉なパラドクスに繋げている。これは巧い。
バーでの長い長いひと幕が終わった途端、めまぐるしいくらいに時空を移動しながら、次々と真実が明らかにされていく。それは、ほとんど究極といってもいいようなパラドクスで、主人公の生から死に連なる円環は時系列には起こり得ず、すでに閉じた状態で同時に出現しなければ成り立たない。この倒錯したウロボロス的なメインアイデアを面白がれるかどうかで評価は割れるかもしれない。そういう意味では、人を選ぶ作品だと思う。もちろん、ぼくは大好きだけど。
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