脳内ポイズンベリー : インタビュー
演じることが好きでたまらない、真木よう子&吉田羊が放つ美しさ
「うちの母が羊さんの大ファンなんです」――。真木よう子の言葉に吉田羊は恐縮しつつも嬉しそうに笑みを浮かべる。「若さ=美しさ」という価値観が幅を利かせる世の中で、真木と吉田が高い支持を集めている。“年齢”をものさしとしない美しさ、凛とした佇まいの2人に、世代を超えて多くの女性が「かっこいい」と憧れるのも分かる気がする。もちろん、演技力の高さは言うまでもない。(取材・文・写真/黒豆直樹)
そんな2人が奇妙な形で共演を果たしているのが「失恋ショコラティエ」などで知られる水城せとな氏の人気漫画を映画化した「脳内ポイズンベリー」。真木はタイプの違う2人の男性の間で揺れる30歳の主人公・いちこ、吉田はいちこの行動を司る“脳内会議”の一員で“ネガティブ”を体現する池田を演じている。ネガティブに加えポジティブ(神木隆之介)、理性(西島秀俊)、衝動(桜田ひより)、記憶(浅野和之)の5人が、いちこの恋をコントロールすべく議論を繰り広げる。
いちこは優柔不断で、決して強くかっこいい女性ではない。原作でも、フワリとした柔らかいイメージで描かれており、正直、真木のキャスティグを意外に感じるファンもいるだろう。真木も、自らに向けられるイメージとの違いを自覚した上でオファーを受けた。
「最初に台本を読んでみたら、素直に面白くて、同時にいままであまり自分がやったことのない役だと思いました。現実と脳内会議のパートに分かれた変わった構成で、どんな作品になるんだろう? という不安はありましたが、ワクワク感の方が大きかったです。女優として、やったことのない役をやってみたいという欲もあり、挑戦しました。ただ、いちこのキャラクターは、自分も含めて女性なら割と誰もが持っているものだとも思います。いちことの違いとして感じたのは“目線”ですね。私は人を見る時、ガっと見つめて威圧感や恐怖を与えてしまうので(苦笑)、そこは気をつけました」。
吉田が演じた脳内会議の“ネガティブ”池田は、吉田いわく5人の会議メンバーの中で「最もいちこに近い」タイプ。声を掛けたいけど掛けられない、一歩踏み込みたいけど怖くてできない、女性が最も感情移入して見られる役と言える。
「女性の気持ちを代弁している役だと思うので、共感していただける部分が多いですよね。ただ“ネガティブ”って言葉自体がすごくマイナスなイメージを持っていて、そこで見る人に『見るのがつらい』とつまずいてほしくなかった。私が目指したのは“笑えるネガティブ”です。陰鬱で内向的じゃなく、攻撃的で発散型のネガティブ(笑)。言っていることは極端で暗いんだけど、それを自信たっぷりに言われると、なんだかアンバランスで面白いぞってところを狙いました。ひとつひとつの言葉が腑に落ちるものばかりで刺さるので、いちいちうなずいて見てほしいです」。
ポジティブ、理性、衝動、記憶という他の要素を体現する4人との掛け合いが脳内会議の魅力だが、実際の芝居のやりとりの中での発見もあったと吉田は言う。「ポジティブとネガティブって両極だけど、結局は背中合わせなんだなというのは、神木くん(ポジティブ)とのやりとりで感じましたね。グルッとひと回りするとどちらにも変わり得るんです。ネガティブを出そうとワーッと演じていたのに、気づいたらポジティブになっていたりして、それは現場での新たな発見でした」。
ちなみに真木と吉田は普段、決断力はある方なのか。それともいちこのようにあれこれと迷い、脳内会議が紛糾してしまうタイプなのか。共に自ら「女優になる」という決断をしてこの世界に飛び込んだ2人だが……。「私はある方ですね」と語るのは真木。「こう見えて、神木くんが頭を占めています(笑)。『いいじゃん。やっちゃおう!』と。決断した後も、わりと楽観的で、何が起きてもまあいいやって(笑)。女優になるという決断は小3くらいの時で、たぶん、頭の中の会議にはひよりちゃん(衝動)しかいなかった。いまになって、いろんな経験をして『女優って大変』と思いますけど、まあ、もうなっちゃっているんでね(笑)」。
小学校の低学年で決めた夢を実現すべく中学卒業後、10代半ばにして俳優業を生業にした。「そもそも勉強が嫌いで、やりたいことだけやりたかったんですよ。小3で女優になると決めたのも、義務教育が中学で終わるってことを知ったから(笑)。じゃあ、私は演じることが好きだから女優になればいいんだって。だからすぐ決断しましたね」。
一方の吉田は、自らの決断力の有無について「どうなんでしょう、うーん」と首を傾げて考え込み、すかさず取材を見守っていたスタッフから「この時点で決断力なさそうですね(笑)」とツッコミが入る。「確かに毎回すごく悩みます。ただ、悩むけど考え方の基本はポジティブだと思います。本当にネガティブだったら、立ち止まって動けなくなっちゃうんでしょうけど、現状は少しずつ前に進んでいるので、どこかで私も『何とかなるんじゃないの?』と言い切れる強さを持っているのかなと思います」。
そんな悩める吉田も「女優になる」ということに関しては別段、迷いはなかった。いや、本人の言葉を借りるなら「決断したつもりもなかった」という。「私、子どもの頃からおままごとが大好きだったんです。中学になるまでやめられずに、小さい子をつかまえて一緒に遊んでもらっていました(笑)。だから学生時代に演劇をしていたのもごく自然なことで、それが就職活動の一環だったんです。自分が会社勤めする姿が想像できなくて、雑誌の『ぴあ』の欄外に『出演者募集』という文言を見つけて応募して飛び込んで。その時も養成所に入るとかレッスンを受けるというアタマもなくて、とにかく実践したかったんです。実践してダメなのかどうかを自分で判断したかった。そうしたら意外に気持ちよくなっちゃって、いまに至るんです。まあ『この先どうなるのか?』という想像力が欠如しているのは役者としてどうなんだろうと思うところもありますが(笑)、結果的にいま、こうしていられるので、幸せな性格なんでしょうね」。
映画の中で、いちこは勧められるがままに書いた小説で文壇デビューを飾る。それでも自分の仕事の価値に半信半疑の彼女に対し、年上の編集者・越智(成河)は、自分の仕事に誇りと自信を持つようにと諭す。優柔不断な彼女の成長が見どころのひとつであり、働く人間の共感を呼ぶ。タイプは違えど、人気女優として引っ張りだこの真木と吉田。2人はどのように自分のやってきた仕事、周囲の評価や手応え――「自信」というものに向き合っているのか。
ここでも真木は「どこかで『どうにかなる』という気持ちがある」と明かす。「決して自信満々ではないです。でもやってみないと分からないことの方が多いし、そこで上手くいかないなら周りと相談すればいいと思っています。ただ、変わってきた部分はありますよ。小さい頃から女優を夢見てきて、昔の方が根拠のない自信を持っていましたね。そこから夢が現実になって、いろんなものがくっついて来て。でもいらないものは削ぎ落としていけばいいし、以前のような根拠のないものではなく、実際にここまでやって来たという自信はありますね」。
吉田は「自分の中に『これが私の代表作』と言える作品はないし、きっとこれからもないと思います」と言い切る。「あえて自信を持つ必要はないと思って仕事していますね。一生、代表作と言える作品を探し続けて向き合っていくんだと思います。ただ、ファンの方や作品を見て『あの作品に元気をもらった』と言ってくださる方がいてくださることは自信になっています。お芝居に関してはいつまでも自信は持てないけど、こんな私を必要としてくれる人がいて、私のお芝居で人を元気にできると実感できた時は、一歩進めたと感じます」。
主演こそ少ないものの、キャリアウーマンから温かい母親、本作のようなコミカルなキャラクターまで幅広い役柄をこなし「いま、最も求められる女優」とも言われる吉田。こうした自らを取り巻く状況の変化にも「お仕事の幅が増えて、求められることが変わっているのは感じますが、だからといってそれが自信にはつながらないです。むしろ、幅が広がった分だけ不安も増えました」とあくまで冷静に自らを見つめる。「この先も女優という仕事への向き合い方は変わらないと思いますが、ただ自分の周りでいま、起きている大きな流れみたいなものは感じています。そこに流されず、足元をきちんと見据えて…という気持ちはいままではなかったことですね。そこはひとつの変化かもしれません」。
人気も評価も、自分たちが歩んだ後ろからついてくるものだということを2人とも自覚している。そして何より、彼女たちはひたすら「演じる」ことが好きでたまらないのだ。若い俳優、年齢を重ねた男優が主演を務めることが圧倒的に多い日本映画だが、彼女たちのような「かっこいい」女優を中心に据えた作品が増えることを期待したい。