「消えていくものはすべて大切なもの」世界から猫が消えたなら りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
消えていくものはすべて大切なもの
北海道の田舎町で暮らす郵便配達員のボク(佐藤健)。
母(原田美枝子)を亡くし、時計店を営む父(奥田瑛二)とは母の死以来疎遠。
大学時代からの友人ツタヤ(本名タツヤ、濱田岳扮演)とはいまも交流があるが、映画館に勤める恋人(宮崎あおい)とは、いつしか疎遠になってしまった。
そんなボクはある日、悪性脳腫瘍で余命幾ばくもないことを医者から告げられたが、その夜、ボクそっくりの悪魔が現われて、「1日にひとつ、世界から何かを消す代わりに、君の命を1日伸ばしてやる」と告げられる・・・というハナシ。
ゲーテが描くメフィストフェレスのハナシに似ているなぁ、というのが観る前の予感。
観ている最中は、「あれ、これはキャプラの『素晴らしき哉、人生!』の逆バージョンかしら」と思っていました。
まぁ、どちらにも似ている。
元来、この手の寓話は似ていても仕方がないので、そんなことはどうでもよろしい。
ようは語り口なんだけれど・・・
どうも、しっくりこない。
というのも、消されるもの(悪魔が選ぶんだけれど)が、ケータイ電話、映画、時計、そして猫と、端からボクにとっては重要な思い出に繋がるものばかり。
はじめから、重要なものを消しては、ハナシの底が浅くなってしまう。
「ま、これぐらいならいいか」的なものから消して、そんな軽く思っていたものが積もり積もっていくと、実は重要だった、てな語り口が定石だと思うんだけれど。
りゃんひさだったら、彼女との思い出に係わるケータイ電話が消えちゃった時点で「ごめん、もういいわ。そんなにつらい思いするなんて、オレ・・・」って思っちゃう。
ここで「ごめん」っていっちゃうと映画は1時間もしないうちに終わっちゃうんだけど、そうなるとロッド・サーリングの『ミステリー・ゾーン』になってしまう(ありゃ、前回『追憶の森』でもロッド・サーリングを思い出したぞ)。
というわけで、ちょっと底が浅いような気がして、感銘は薄し。
とはいえ、ロケーションがいい。
北海道の函館・小樽のくすんだようなモノトーン気味の街並みと、南米のカラフルな街並み。
それに世界の瀑布イグアスの滝の迫力。
ハナシはともかく、映像が心に沁みる。
ちなみに登場する「ミナト座」なる映画館は、函館十字街の「はこだて工芸舎」の建物を使用したもののようです。