劇場公開日 2016年5月14日

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世界から猫が消えたなら : インタビュー

2016年5月13日更新

佐藤健&永井聡監督、“猫”のような宮崎あおいと距離感を縮められた!?

主演としての責任、覚悟をこれまでにないほど背負ったからこそ、手綱を緩めずに走り切れた実感がある。佐藤健が「世界から猫が消えたなら」を勝負作と位置付ける根拠だ。全編にわたって出演シーンがあり、しかも1人2役、初の海外での撮影など次々と高いハードルに挑んだ。その熱情を永井聡監督が丁寧にすくい取り、スクリーンに照射するまでの軌跡に迫った。(取材・文/鈴木元)

2013年刊行の「世界から猫が消えたなら」は、映画プロデューサーの川村元気氏の処女小説。佐藤は出版当時に読んだ際、主人公「僕」の年齢設定が30代だったこともあり出演オファーには驚いたが即決だった。

「もう、すぐ。すぐですよ。2秒くらいですね。ぜひ、お願いしますと。やはり川村さんというのが大きかったですね。『バクマン。』で仕事をした時に、この人と映画を作りたいと思える方だったので、断る理由がありませんでした」

突然余命を告げられた郵便局員の僕。だが、目の前に現れた「悪魔」から「大切なものをひとつ消せば、1日の命をあげる」と持ち掛けられる。悪魔は原作では僕と異なる容姿だが、結果的に指の長さが違う以外は同じ姿になった。これには永井監督の発想も大きく寄与している。

佐藤「最初は特殊メイクかな、みたいにいろいろと考えたんですけれど、監督と初めて会って話した時に全く一緒でいきたいと。それはそれで面白いかなというところから入り、悪魔の細かいテンションや芝居についてはリハーサルをやらせてもらったりしながら、けっこう時間をかけてつくっていきました。ディスカッションという意味では、一番時間をかけたところかもしれないです」
 永井「健くんで当て書きを始めて、絵を想像すると健くんがそのまま2人で話していた方が面白いかなと。彼の作品を見ていろんな顔つきを持った子だと感じていたので、その表情の移り変わりを生かさない手はないと思ったんです。特殊メイクはパッと見は分かりやすいけれど、表情や微妙なニュアンスを隠しちゃうんですよ。そういう微妙な表現を、チャレンジだけれど佐藤健という役者にやらせてみたかった」

撮影は北海道・函館でのロケからスタート。佐藤はほぼ出ずっぱりの役どころのため、撮休日以外は毎日現場に立った。もちろん、脚本を読んだ段階から覚悟はできており、集中力は「気合い」で維持したという。

「疲れますよ(苦笑)。共演者も自分、もしくは猫なので孤独感もあったし、けっこう大変でした。でも、この映画の出来に対する自分の比重がすごく大きいと思っていたので、頑張らないと、と。もう、気合いでしたね。糸を緩ませないでやるのは、根性です」

僕は電話、映画、時計と消していくことで生きながらえる半面、失ったものの大きさに気づいていく。回想で描かれる、かつての恋人・宮崎あおいとのアルゼンチン旅行のシーンは切なさを増大させる効果を発揮。特に世界遺産で世界3大瀑布(ばくふ)に数えられるイグアスの滝の映像は壮観だ。

「原作にもイグアスが出てくるので、ずっと気になっていたんです。実際に行くことが決まって、そうでなくちゃと思いました。行くのはめちゃめちゃ大変でしたけれど、自然と高揚感がありました。活気のある街でしたし、ただ歩くだけでも新鮮でテンションは高かったです。イグアスは本当にすごいですよ。世界に素敵な場所や美しい場所がいろいろある中で、ただただエネルギー量だけで押し切ってくる感じが、すごく格好いいなと思いました。人生で1度は立てて良かったなと」

ロケハンで1度行っている永井監督にとっても貴重な体験だったようだが、世界的な景勝地とあって相応の苦労もあったようだ。

「プレッシャーも大きかったですけれどね。雄大さに飲まれて舞い上がっちゃうといい演出ができない。時間もない中での一発勝負で、彼らが芝居をしている時も観光客が入ってきたのですが、2人とも集中力を切らさずにやってくれたので助かりました」

佐藤はこのイグアスの滝でのカットを持ってクランクアップ。安ど、達成感はそれまでの出演作の比ではなかったという。

「自分がダメだったら映画もダメだと思っていたのでプレッシャーも大きかったし、しっかりやらないとという気持ちも他の作品と比べても大きかったので、終わった時はひとまず良かった、と。最後まで糸を緩めず、ベストを尽くせたという意味では手応えはありました」

ただ佐藤、永井監督とも、じゃっかんの心残りは「彼女」役の宮崎との距離感を縮められなかったことのようだ。そのことを笑いながら振り返るやり取りが実に楽しい。

永井「才能も魅力もあるから、スタッフ全員が仲良くなりたいんですよ。だけれど、本当に猫みたいにするっとどこかに行っちゃうんですよ」
 佐藤「皆、大好きでしたよ。僕はさすがにアルゼンチンまでけっこう2人で長い旅をしてきた分、監督より多少は縮まったのではないかと」
 永井「アルゼンチンでは、しりとりしていたよね」
 佐藤「していましたね。監督も、『俺も』って言って輪に入ってきた。懐かしいっすね。でも、本当に猫みたいな人なんですよ。仲良くなったと思ったら、あれ? また距離ができたみたいな」
 永井「健くんもちょっと猫っぽいけれど、ちゃんとひざの上に来てくれる感じ。でも、あおいちゃんは読めないですね」
 佐藤「ひざの上を1回歩いて通過していく感じですね」

この2人に関しては親密度を深めた様子だが、永井監督はもともとファンだったという佐藤との仕事を通じて感じた魅力とは何だったのだろうか。

「この間、HARUHIちゃんの主題歌のミュージックビデオに1シーンだけ主人公に戻って出てもらったんですよ。そうしたらもう、顔が変わっちゃっていて皆で主人公じゃないねって。僕に会えないのは寂しい感じもするけれど、今あることに集中してどんどん別人のように変わっていく役者なんだなと。そこがあらためてすごいなと思いました」

そんな佐藤も、デビューから10年がたった。さまざまな役に意欲的に取り組み、永井監督が言うように多くの顔を見せてきたが、本人からは「自分に飽きている」という意外な答えが返ってきた。

「役の振り幅で言うと単純に飽き性だし、同じことをずっとやっているよりも全然違うことをやりたいという欲求が出てくる。でも、5年前だったら自分がスクリーンに出ているのを見たらけっこう面白かったのですが、今は全然で……。だから、ちょっと顔を変えたいなって。髪形もけっこう変えていたのですが、もうやり尽した感があって、髪形を変えたくらいじゃ満たされなくなって、全然違う何かになりたいですね。何年からしたらまた変わるんでしょうけれど、今はそういう時期です」

まさに、常に変化を求める役者ならでは苦悩、特性の表れではないだろうか。川村氏が再び企画に携わった10月15日公開の「何者」に主演。佐藤健は何者になっているのか? また新しい顔を見せてくれそうだ。

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