「狂気の果てに伝説が生まれる」セッション REXさんの映画レビュー(感想・評価)
狂気の果てに伝説が生まれる
名門音楽学校に通うニーマン。 友達も少なく恋人もおらず、孤独で一見凡庸そうな青年だが、ドラムの腕を見込まれてカリスマ教授フレッチャーのバンドに参加することになる。 だがそれは、恐るべき試練の日々の始まりだった。
フレッチャーのサディスティックな指導は、しごきと呼ぶには生ぬるい。
まるで刀を持って対峙しているかのごとく、目をそらすことも後に引くこともできない。フレッチャーが人斬りならば、ニーマンは竹刀で戦う道場剣。スティックを刀身と見立てるならば、一振りごとに神経を削る命のしのぎ合い。
一音でも間違えば待ってるのは無限地獄。
仏教でいうならば眼睛、ただ己の体そのものが音となって忘我の境地にならなければ、フレッチャーは満足しない。
もう、生徒の人間性なんておかまいなしなのである。というか、人間性なんて見てないのである。
この異様な人間関係、見たこともない緊張感と緊迫さは【ブラック・スワン】に似ている。
これは本当にジャズ映画なのか?
私はなにを見てるのだろう?
そんな緊張感はラストまで緩まない。
精も根も尽き果て「我」を取り戻したニーマンと、学校以外の場所で出会ったいつもより 「人間らしい」フレッチャーとの間に、一種の和解が生じたなどと甘い夢を見ていたら、思いっきり張り手を食らった。
久々に、予測をはるかに越える怒濤の展開 。
フレッチャーの復讐劇は、ニーマンのお披露目公演と化してしまうのである。
そしてその狂気の果ての瞬間に立ち合えたことに、こちらも体の芯が震え、フレッチャーと同じく、わけのわからない悦びさえ感じてしまうのである。
ニーマンがフレッチャーと出会ってなかったら、捨てきれない夢を抱えて場末のバーでスティックをふるう凡庸な人生を送っていただろう。
漫画原作の安っぽいドラマに浸りきったお花畑の高校生などに、これを見ろ!と突きつけたくなる。 とにかくこういう映画が、一種の映画愛好家の嗜好品とカテゴライズされてしまうのは勿体無い。いや、ほんと、凄い映画でした。