劇場公開日 2015年5月16日

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「涙と笑いと活気たっぷりの快速時代劇」駆込み女と駆出し男 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5涙と笑いと活気たっぷりの快速時代劇

2015年5月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

楽しい

『クライマーズ・ハイ』『わが母の記』の原田眞人監督最新作。
時代は1841年(天保12年)、
老中・水野忠邦による悪名高い『天保の改革』の頃。
夫との離縁を望む女性を保護し、離縁調停を受け持つ
幕府公認の“駆け込み寺”、東慶寺。
その寺を訪れる女性達を中心としたドラマ。
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まずもって原田監督の映画はセリフの応酬が早いので、
聞き取りの難易度はいつも高めなのだが、今回は時代劇で
聞き慣れない言葉が多い事もあり、輪を掛けて難易度が高い。
集中して聴かないと置いてきぼりを食らうので要注意。

それでも重要なセリフはさりげなく聞き取り易くなって
いるところは流石だし、その“生っぽい”セリフの応酬や
テンポの早さが映画の活き活きとした空気に直結しておる。と思う。

『わが母の記』でも印象的だった、
四季で表情を変える自然の美しさは言わずもがな、
江戸の衣装や風俗、細かい所作も雰囲気たっぷりで楽しい!

たとえ感動的な場面でも、センチな演出を
ズルズル引き摺らない所も個人的に好みだ。
鯵売りの正体が分かる場面も、“狂犬”の胸のすく最後も、
いつまでも感傷に浸らずに潔く次の場面へと移る。
最後に読経に来た僧も、最後まで顔こそ見えないが、
顔を見せなくても観客は彼が誰かを察するだろうし、
ならばそこまで見せるのはかえって野暮というもの。
その潔さこそ快い。
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演出もだが、なにより登場人物たちが魅力的。

まずは、じょご。
戸田恵梨香の出演作って今考えると僕は殆ど観てないが、
いやいや、こんなに良い女優さんだとは知らなかった。
素朴な身なりでも、その純粋さ、勤勉さ、しなやかな強さが美しい。
読み書きすらできない彼女は何でも『心』で覚える。
鋳鉄の技も医薬の知識も、彼女は一から身に付けた。
今以上に女性の才能が認められない時代であったが、
然るべき才能に然るべき場と時を与えれば
人は誰でも強く輝ける、という象徴のようだ。

そしてお吟。
若手の中でもすでに頭ひとつふたつ抜きん
出ている印象のある満島ひかりは、本作でも見事。
袖をくるりと返す所作や足運び、キレの良いセリフ回しが
カッコいい。まるで気位の高い猫のよう。
だが、その澄ました表情から時折滲み出る熱さ。
堀切屋への想いや、じょごとの厚い友情に涙。

大泉洋演じる信次郎もまさしく“素敵”!
いつもおどけてるように見えて実は物凄ーく考えてる。
じょごの額に薬を塗る序盤のシーンで、彼の機転の早さ、
ぶきっちょながらも優しい心根が知れるし、
ヤクザ相手に見せるあの刀無しの大立ち回りは、
笑える上にカッコいいのド真ん中!
一度捨て掛けた夢を取り戻せたのも、
彼の優しい心根が結んだ縁あってのことだ。

脇を固めるキャラも良い。
樹木希林や山崎努は重厚なのにユーモラス。
マジメで厳しいんだけどなんかズレてる院代様や、
キムラ緑子演じるお勝のチャキチャキした感じも楽しかった。
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劇中、倹約令の一環として“たかが縁切り寺”である
東慶寺を取り潰そうという流れがあったが、
金にならないという理由だけでこういう大事なものを
ないがしろにする風潮は昔から同じなのかしら。

今も昔も変わらぬ、様々な女性の抱える悲しみ、そして強さ――
そんな重くなりがちなテーマを、
テンポ良くユーモアたっぷりに綴った快作。
最初から最後まで気持ち良く笑って泣けて、
観終えてからも清々しい余韻に浸れる良い映画でした。

<2015.05.16鑑賞>
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余談1:
“粋(いき)”とは違うと劇中でも言われていた “あだっぽさ” という言葉。
“あだっぽさ” で調べても適当と思える訳が出てこなかった
が、堀切屋の言っていた『徒花(あだばな)』に近い意味
ではと思ってそちらを調べると、こんな言葉が出てきた。
・徒花:咲いても実を結ばない花。咲いてすぐ散る,儚い花。

成る程、堀切屋の旦那も、お吟も、夫婦揃って “あだっぽい” 。

余談2:
「『八犬伝』の続き読みてえなあ!」とかって、
こっちがちょうど新作映画を心待ちにする感じとかに
近いんだろうね。娯楽の少ない時代であれば尚更だろね。
なんだかここも現代と地続きな感じがして微笑ましい。

浮遊きびなご