「届かない思い」予告犯 MintSleepyさんの映画レビュー(感想・評価)
届かない思い
予告の印象だとつまらなそうで、あまり期待していなかったが、すっかりやられてしまった。
最近よくネットでは底辺という表現を見かけるが、これはまさに底辺で蠢く人々によるささやかな反撃の物語である。
派遣社員などの非正規雇用、職歴が空くと再就職もままならないといった現状。また自分より下を叩いて嘲笑する無名の悪意。不正を行ってでも、世論をコントロールして、言論規制を強化したい権力者。密入国した不法滞在外国人。全てを努力と自己責任で解決したい強者の論理。これらは全て笑えない現実の問題だ。
劇中のセリフで忘れられないのは、戸田恵梨香演じる女刑事が生田斗真に、そして逮捕されたネットカフェの店長に言われる『あなたには分からない』。強者には弱者の気持ちは分からないし、その逆もまたしかり。分断されきってしまった私達にはごく狭い世界しか認識できなくなってしまっている。そしてもう一つ。『お前が腎臓を売ってまで来たかった日本がこんなでごめんな』落日の現状を見えない、見たくない人々にこのセリフは少しでも響くのか。
こうした社会派ドラマを、本作では往年の人気シリーズであったハングマンのように馬鹿馬鹿しい私刑によって断罪していくところから始まり、きちんとエンターテインメイントとして昇華して見せ切った。中村監督を初めとするスタッフの手腕は凄いし、今この内容をメジャーな舞台でやり切れた意味は大きいと思う。だが同時に思うのだ。真に底辺にいる人々は映画など見る余裕はないだろうなぁとも。若者目線ではないという批判はある意味では正しいのかもしれない。
満点にしなかったのはクライマックスで戸田恵梨香が生田斗真をいきなり抱きしめたから。あそこはその前に一発引っ叩くぐらいしてからでないとキャラ的に整合性が取れない気がした。