「.」劇場霊 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
.
自宅にて鑑賞。『クロユリ団地('13)』のヒットを受け、企画:秋元康×監督:中田秀夫×主演:AKB48メンバーによる新作。ガチガチのステロタイプ乍ら、20年前との設定のいきなりのファーストカットに驚かされる。濁った色味に支配された屋外や日常の描写、ボソッと吐き出される科白とその間等、監督はこのジャンルに適したじめっとした雰囲気や湿っぽい作風が得意だと思う。そして『鮮血の呼び声』より『ガチで怖い動画』ってシリーズ(作中登場するのは「2」と「3」)の方が気になり、観てみたくなった。ちょうだい。60/100点。
・同じ監督の作品ではないが、関連作で同じく舞台女優を主役に据え、製作やその周辺を扱った鶴田法男の『リング0 バースデイ('00)』を想起して、無意識の内に比較してしまう。良し悪しは別にして本作の場合、どうしても舞台より人形が際立った内容となっている。
・ネタバレとして、人形と同性ばかりが吸い取られると云う違いはあるが、今やこのテの描写の定番とも云えるT.フーパーの『スペースバンパイア('85)』を彷彿させるシーンがあった。クライマックスでは、市川崑の『犬神家の一族('76・'04)』の“犬神松子”みたく、キャストに何等かのアクションを附けた方が良かったかもしれない。
・脚本の二人を始め、『クロユリ団地('13)』のスタッフ陣が多く参加しており、中でも監督作でよく起用される川井憲次の音楽も相変わらず映像の邪魔をせず効果的で佳かった。亦、何度か登場する大雨も小道具として活かされていた。
・恐怖度を含め本作の悪評は多いが、それ程酷くはないと思う。惜しむらくは、前半の曰く付き人形を因果とした件りに反し、町田啓太の“和泉浩司”が暗躍する予定調和な謎解きに入った途端、やや煩雑でテンポを殺してしまい、縺れたその儘クライマックスに雪崩込むので、纏まりが悪く映るのが残念だった。
・全ての演者の科白を短時間で覚えられる能力を持つ主人公の設定は、有名な美内すずえの漫画『ガラスの仮面』に登場する主人公“北島マヤ”を想起した。実際にこのタイプの役者は存在するらしく、柄本明は自分が登場するシーンの全ての演者の科白が入った状態で、現場に臨むと聴いた事がある。
・話題になった“水樹沙羅”の島崎遥香、大きく眼を見開いた表情が印象的な上、熱演は伝わったが、歩き方や食事、視線の動き等、何気無い普段の自然体の演技に少々難有りに思え、その意味でツンッとすましたスター“篠原葵”の高田里穂の方が佳かった。
・“錦野豪太”の小市慢太郎は、メリハリのついた科白回しに、インテリっぽさが残ったねちっこくいかにもと云った嫌味があり流石。“えりこ”の土村芳やプロダクション社長の広岡由里子、“児島敬一郎”の中村育二、刑事のヨシダ朝、鑑識で中田組常連の柳憂怜、更には同じく常連の芹沢礼多等々、他にも脇を固める方々に存在感があり、巧い人が多かった。
・画面の発色に拘り、全篇敢えてフィルムにより撮影されたと云う。ただやはりこの監督は、少々イカレ気味な脚本の高橋洋とのコンビによる新作が観てみたい。
・鑑賞日:2016年6月15日(水)