「『リング』系統とは異なる様式的怪奇映画」劇場霊 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
『リング』系統とは異なる様式的怪奇映画
シャマラン監督が新作を出すとどうしても『シックス・センス』超えを期待してしまうのと同様、
中田秀夫監督が新作ホラーを出すとどうしても『リング』超えを期待してしまうのが人の性(?)。
しかも今回はあの『女優霊』をイヤでも連想させるタイトルなのだから、
どろりとした粘着質の恐怖、そして直視するも恐ろしい歪んだ怨念の姿を望んでしまう。
が、本作がそういう点での期待に応えた映画かというと、95% NOだ。
僕はかなりビビりな方だが、目を開けられないほど怖い!というシーンは無かった。
だが、なんつうべきか、この映画は「怖くない」というよりは、
「近年のJホラーとは異質な怖さがある」と言った方がしっくり来る。
先ずもって本作は、西洋的な感触がかなり強い。和洋織り混ぜたゴシックホラー路線なのである。
『リング』や『女優霊』を期待された向きはガッカリされただろうが、
「あ、これはこれで怖面白いじゃん!」というのが僕の感想だ。
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前作『クロユリ団地』でも印象的だった鮮やかなライティング、
“追跡者の視点” の導入(『13日の金曜日』とかのアレね)など、
怪異の見せ方がストレートかつ人工的なので、『リング』系統の生々しさはほぼ無い。
だがそれでも、観ていて終始ゾクゾクした寒気を覚えるような映画だった。
正直、先週『エベレスト3D』を観た時よりも体感温度が低いと感じたくらい。
西洋の死装束を纏うように、ビニール袋で覆われた人形が椅子に鎮座する様、
一瞬生きているのではと錯覚するほどリアルな人形の表情が大写しになる瞬間など、
(小さな人形に囲まれて首だけ置かれたシーンとかスゲー怖い)
端正な顔なのに、居るだけで澱んだ空気を発するようなあの人形の存在感は素晴らしい。
恐怖の大団円を迎えるクライマックスでの姿もグッド!
非人間的な硬質な動きながら人間的な執念を感じさせる様が実に不気味だ。
怯えるヒロインだけを映してどこからか誰からの悲鳴だけ響いてくるシーンも素敵だし(←素敵?)、
後ろ歩きで関節メキョメキョ鳴らしながら迫ってくるシーンには
顔が引きつった(95%と前述したが、残り5%はココ)、
檻の周りをぐるぐるぐるぐる回るシーンなんて「ひ、ひいぃぃぃ……」って感じ。
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恐怖には寄与してないし、台詞の発声が映画的過ぎるあの舞台で客が呼べるかどうかは多いに疑問だが、
実在の殺人鬼エリザベート・バートリを劇中劇の題材にした点も成る程と言った所。
永遠に若くあることに執着した陶器のように美しい殺人鬼と、
生きている人間が羨ましくて羨ましくてしようがない、漆喰で塗り固められた屍。
同時に、女優たちのプライドがぶつかり合う題材としてもしっくり来る。
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役者の話が出た所で主演陣についても。
アイドル関連に疎い自分は主演の島崎遥香については
名前と“塩対応”というスラングくらいしか知らないのだが、とりあえず可愛い(笑)。
不器用で生真面目そうなこの役も似合うし(ここだけ読むと高倉健みたいだか)、
背後の気配を感じた際などの目の表情や視線の動きが特に良い。
ホラーの主人公は目の表情が良くないと。
ただ、エリザベートの代役に抜擢されるには執念深さ(と背丈)が足りない感じ。
それと、これは役者というよりは演出だが、人形にトドメを刺すシーンのアイドルっぽい決め台詞と、
アクション映画の主人公みたいなラストカットは「いや、これは違う」と感じた。
そうそう、足立梨花についても。
エリザベートを演じた3人の中では彼女が一番エリザベートにしっくり来ている
と感じたし、純心さと役への渇望とがうまい塩梅に混ざり合った良い役。
監視カメラ越しの謝罪は物悲しかった。
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以上!
前述通り『リング』系統の恐怖とは大きく異なるが、様式的な面白さと怖さがある。
これは『恐怖映画』と呼ぶよりは『怪奇映画』と呼ぶべき手触りか。
ホラーには点の甘い自分の言葉ではあるが、観て損ナシの佳作だと思います。
<2015.11.21鑑賞>
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余談:
ずっと後ろの席に10人くらいの若い外人さん(たぶんブラジル人)が座っていて、
これがまあ上映中にもペチャクチャペチャクチャと郷に入っても郷に従わぬラテンなノリ。
いい加減イライラしたので僕はサッと後ろを向いて「ちょっと静かにしてもらえませんかね?」
とガツンと文句を言う代わりに精神的にノイズキャンセルをかける特殊スキルを駆使しながら鑑賞。
(申し訳無い、2~3人ならともかくそんな人数の外人さんを注意する勇気は無いっす)
で。
映画が終わった後に、そのグループからなんと歓声と拍手が起きた(笑)。
やっぱ西洋的にも親しみ易い恐怖だったんだろうか、この映画。