劇場公開日 2014年11月14日

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「6才のぼくが、大学生になるまで」6才のボクが、大人になるまで。 CRAFT BOXさんの映画レビュー(感想・評価)

3.56才のぼくが、大学生になるまで

2014年12月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

幸せ

12年間という長い時間をかけて1つの作品を作り出して行く。
リンクレイター監督の「ビフォア3部作」のように、シリーズを通じて同じキャスティングで幾つかの作品を繰り返して行く映画はいくつもあるが、本作のようにたった1本、時間の経過とともに撮影して行く作品は、他に例をみない。
そのことだけでも、映画史的には十分に記念碑となるし、称賛に値する。

しかも、原題「BOYHOOD(少年時代)」とあるように、一人の少年が6歳から18歳になるまでの成長を描いていくのだから、時間の経過は作品にとって必然と言える。
本作が企画された当初、世の中は『ハリーポッター』がブームとなっていた。本作中にも、そんな原作のブームがちゃんと映像に収められている。映画の『ハリーポッター』が、やはり少年を主人公に数年間かけてシリーズを完成させたわけだが、主演のラドクリフをはじめ、主要キャストの子供達が、物語の進行以上に成長してしまい、最後には少年の冒険ものというよりも、青年魔法使いの戦争という具合になってしまったのを鑑みると、本作が時間をかけて少年の成長を追ったのは極めて自然な企画であるのに、これまで同じような企画がなかったことが、ある意味で不思議でもある。
主人公の少年だけでなく、社会の変化、家族の変化も、分かりやすく描かれていて面白い。とくに、両親の大きな変化について、あるいは両親それぞれと子供達の距離感については、絶妙な見せ方だったと思う。母親を演じたパトリシア・アークエット、父親を演じたイーサン・ホーク、二人が肉体的に若者から中年になっていく様は、監督としても予想以上の変化ではなかっただろうか。

ただし、あまりにもストーリーに起伏がなさすぎる。
もちろん、両親の離婚も、学校でのいじめも、家庭内暴力も、恋も、一人の人生にとっては大きな出来事ではあるのだが、本作はそうした出来事を、ことごとくサラリと触れるだけである。登場事物たちの心情描写や、時間の経過とともに起こるはずの気持ちの変化は、観客の想像力だけに委ねられる。映像で見せるのは、時間の経過と、その時々の出来事だけと言っても過言ではない。「変化」は見せるものの、「連続性」について映像的にはあえて見せていない。

日本では、ドラマ『北の国から』の純と蛍のように、あるいは『渡る世間は鬼ばかり』の愛と眞のように、シリーズを通じて一つの兄弟の成長を何年もかけて視聴者が追い続けている。吉岡秀隆は、いつまでたったも「純くん」なのである。しかし、これらの作品が面白いのは、長い時間かけてシリーズとして作られた作品が、その時々でとてもドラマチックに展開したからである。
ところが、本作はそういう作風ではない。母の再婚相手の姉弟と生き別れたまま、その後、何も明かされない事が象徴しているように、本作は、一般的な人生と同じように、必要以上にドラマチックな展開は用意されていないのだ。
用意されていないというよりも、用意できなかったというのが実際のところだろう。毎年夏休みの数日だけで撮影を続けてきたようだが、そもそも主要キャスト以外に、12年間もの長期契約(アメリカの労働法によって6年おきに契約したらしい)を維持し、短い撮影時間に何人ものキャストを集め続けることなど、予算的なことを含めて困難だったはずだ。もちろん、監督には「人生なんてこんなもの」という意図もあったろうが、少なくとも今回のような手法では、他のやり方が選択できなかったという部分が大きいのだろうと推測する。

この凡庸で「何も起こらない」ストーリーは、いくら何でも称賛できない。
たしかに「人生なんてそんなもの」ではあるが、普通の人生を見せられるくらいなら、映画を見る意味がない。やはり、ストーリーにはもう少し展開らしいものが必要だ。仮に、成長によって俳優を変えて「少年の12年間」を描いた作品が本作のストーリーと同じだったら、極めて凡作と評価されたはずである。
ラストシーンで、主人公の女友達の会話によって、本作が「一瞬の時間を重ね合わせた作品」というコンセプトであると説明して終える。時間というのは、その時々を切り取ったとしても、連続性があるということだろ。
そういう意味では、2時間40分は少々長かったかもしれない。もう少し短くても、連続性は受け取れたはずで、ストーリー展開に起伏がない分、長く感じた(母親が「もっと長いと思ってた」と台詞は、いろんな意味で絶妙だ)。
今後、こうした試みの映画が作られるのなら、もう少しプロットを作り込んで撮影して行く方法を考えつかなければ、仮に12年が20年になろうと、面白いものにはならないと思う。そこは課題である。

ただ、前述した通り、やはり映画史的に十分に評価できる作品だ。
時代の変化、アメリカ社会のその時々の世俗、そして人間の成長や変化を、リアルに見せつけた手法は素晴らしい。

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CRAFT BOX