野火のレビュー・感想・評価
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今この映画を撮る必然
昨年夏から持ち越していた夏休みの宿題を厚木にて…
とにかく悲惨で重く、下っ腹にズシンと来る。
戦争映画とはいえ、闘っているのは専ら飢餓と混乱であって敵兵など殆ど姿を見ることもない。稀に戦闘があってもそれは戦闘とも呼べないような虐殺であったり…
国を出て異国の豊穣な大地で何故こんな目に遭わなくてはならないのか、そして、人間はいとも簡単にこうした逆境にも適応してしまうのだと、とても考えさせられます。
こうした状況に何十万人もの人々を追い込んだ『愛国』という空気を、政治の不条理を、けして忘れてはならないと、今このタイミングでこの映画を作った塚本晋也監督に敬意です…
究極のサヴァイバル映画
中村達也の鋭い眼光に存在感が凄まじく作品自体の映像の力にグイグイ引き込まれてしまう不気味なまでの怪作で驚愕した。
作品の内容や製作過程の話題性より塚本晋也×中村達也の「バレット・バレエ」以来の映画として鑑賞。
グロ描写より音が正気を失った兵士達の無感情な表情に何処からとも無く襲ってくる銃撃の弾、その音が恐くて堪らない。
吐き気がする。でも、これが戦場なんだろう。
観ていて辛い映画だ。
正視出来ない場面が続く。
でも、観てよかったと心底思う。
「戦争の真実を暴こうとする映画を作ろうとするとお金が集まらない」と、この映画の監督の塚本晋也はインタビューで語っていた。
特攻を美化してコテコテにCGを使いまくった某戦争映画がメジャー系列で公開されて大ヒットして、こうゆう映画はインディペンデント系の小規模な予算で作られあまりメディアも取り上げないのがこの国の戦争映画製作の現状だ。
ここには何のヒロイズムもない。
ただ密林を飢えたまま歩き回る兵士の姿だ。
戦争を経験してない世代である以上、何がリアルかなんて分からないかも知れない。
しかし、及ぶ範囲で想像して、考える事は出来る。
観るのに覚悟がいる。
でも、観てよかった。
テーマ
映画しか見ていないので、その範囲でしか言えませんが。
主人公の田村は非常に優しい人物として描かれています。芋を盗もうとして上官に殴られる永松をかばって、田村は自分の芋を差し出して許しを請います。その直後、アメリカの機銃掃射で日本軍の基地は火の海になり、永松はどさくさに紛れて田村の芋を奪おうとします。
恩を仇で返されたわけですが、その後再会したときも、永松の境遇を不憫に思った田村は、再び芋を差し出します。一度裏切られた相手に二度も親切にします。このときに主人公に感情移入できる人もいれば、仕返しをするくらいに思う人もいるかもしれません。
田村にしても芋をあげた直後に襲ってきた空腹で、「あんなやつにやるんじゃなかった」と後悔するわけですがw
しかし、このことが後に田村自身を救うことになります。
いよいよ空腹で、千切れた人間の四肢を目の前にして、ムシャぶりつきそうになっているときに永松に再会します。そして猿の肉をもらって食べることで命をつなぎます。猿の肉というのは嘘で本当は人肉です。
騙されて人間の肉を喰わされるわけですが、千切れた人間の四肢を目の前に自分の倫理観と戦って、絶命するかもしれないところを救われたわけです。
安田を殺して食おうとする永松を、田村が止めようとすると、永松は「じゃ、俺がお前を食うか、お前が俺を食うかどうするんだ?」と詰め寄られます。極限まで追い詰められて、生き延びるためにどちらか一方が食われるしかない状況のように思われます。
しかし、お互いに殺し合うことはありませんでした。田村は永松になぜ自分を殺さないのか?と聞きますが答えは返ってきません。長く行動を共にした安田を食べようとするほど、人として壊れているように思える永松が、田村を食べなかったのはなぜでしょうか。
田村は自分さえ生き延びればいいという発想とは逆の、いわば人間としての感情を失わないことで、逆に生き延びることになります。フィクションなので、お人好しが都合良く生き延びられたと言われればそれまでですが、少なくとも作者は極限の状態でも人間性への可能性を読者に提示したかったのかなと。
近頃は攻めるか攻められるか、殺すか殺されるかといった二者択一的な思考が流行っているようですが、そうじゃない第三の可能性もあるのではないか。そんな問いが発せられているように思えます。
第三の可能性とは何かと聞かれれば難しいのですが、なぜ永松が田村を殺さなかったのか?そのへんがテーマになるのかなと。
戦争を語る
戦後70年、戦争を語れる方々がいなくなる中、この映画は戦争の惨さ人間の恐ろしさを語ってくれる残すべき映画のように思う。
まず、これを観て戦争やろう、兵隊になろうと言う人はいないと思う。
100分弱ただただ、エグく救われない映像が続き、早く終わってくれ!この地獄から解放してくれ!と思ったが、まさにこれが戦争なのだなと観るのが辛かった。
だけど目を離せない映像の力もあり、トラウマになりそうだ。
あまりお金もかかってなさそうだけど、追い込まれていく心情や匂いまで漂って来そうな映像に気持ちが悪くなった。
だけど戦争映画は悲惨さとは別に、ここまで追い込まれても生きるんだ!お前はどうだ?と言われてるようで力が湧く部分もある。
気分が悪くなった
悲惨な戦場は、こんなにひどくて死にたくなるから止めようね!こんな経験したくないでしょ?
っていうのを感じるにはいい映画だと思います。(血とかいろいろチープすぎるし、現実味がないですが。血は嘔吐効果があるので普通に飲めないし…。)
戦争を肯定するつもりはありません。しかし、日本人は、祖国を愛し、オニギリパワーで粘り強く、作戦はいいのに徹底さに欠ける(笑)ところがいいところだったと思います。
戦争に行ったおじいちゃんは、この映画のような人でしたか?私は日本を守ろうとした人々の誇りを踏みにじられた気がしました。
戦後70年の野火
組織がその体をなくす中、そこに属する者は人間性を如何に失い、如何に保つか?こういったテーマ性は十分感じさせるもので、残虐な表現やグロテスクな映像もそのためのものだから許容できる。ただ、過剰に思えたし、残念ながらメイクや小道具がどうも安っぽくて、逆にリアルさを減じる効果をもたらしていたように感じた。個人的には市川版の淡々と状況が悪くなり、異常な惨状にまで進展していった方が、現実がどのようにも転んでしまう怖さを感じたかもしれない。(しかもあの作品は戦後15年後の作品だったから)。この作品で特筆すべきは、最後の永松の狂気の表情。
この世の地獄
市川崑監督で1959年にも映画化された名作小説を塚本晋也が再映画化。
巨匠に続く2度目の映画化というプレッシャーを感じさせないほどの衝撃作。
「鉄男」の監督が地獄のような戦場を描くのだから、そりゃあ生温い映画が出来る筈がない。
フィリピン・レイテ島のジャングル。
田村一等兵は結核で部隊を追放され、野戦病院からも入院を拒否され…。
いきなりの非人道的な扱い。
最前線、無用な者に居場所は無い。
当ても無くジャングルをさ迷う。
飢え、疲労…。
やがて仲間たちと再会するが、彼らもまた同じだった。
戦況も分からない、助けも来ない、唯一あるのは死の恐怖…。
極限状況下、獣のような本性が剥き出しになっていく…。
人体破壊描写はなかなかのグロさ。
並みのホラーも真っ青。
さながら戦争スプラッター。
周りは“肉”の付いた死体だらけ。
人間が人間じゃなくなった時の行為はただ一つ。
「グリーン・インフェルノ」で話題になったが、衝撃度はこちらの方が上!
塚本晋也念願の企画。
主演・監督・製作・脚本・撮影・編集の6役兼任からもその気合いの入れようが窺い知れる。
終始落武者のような虚ろな表情は戦争への疑問を訴える。
リリー・フランキーの怪演は強烈に印象に残る。
低予算なのは目に見えて分かるが、島の風景だけは高性能のカメラを使ったであろう美しさ。
「シン・レッド・ライン」を思い出した。美しい大自然の中で浮き彫りにされる人の争いと醜さ。
戦争を知らない世代に本作を見せるのはかなりキツいかも。
でも、これが戦争だ。
戦場は地獄だ。
この世に地獄があるとすれば、それは戦場だ。
こういうのを見せられると、涙を搾り取ろうとする戦争美化映画に辟易してくる。
期待したほどには.
世間ではだいぶ評判になっていた映画だ。監督・製作の塚本晋也の意気込みもだいぶ宣伝されていた。若い世代がこの映像を見てだいぶ驚愕したとの感想が多かったように思える。残念ながら、これは戦争の「記憶」さえ若い世代には共有できなくなってことを意味しているのかもしれない。
映画としては、グロテスクなまでに正直に撮られた映画という印象が強く、古い世代にとっては、新鮮で驚くような表現手法はなかったはず。だが、それがこの映画にリアリティを与えているのかもしれない。
しかし、一度見ればもうそれで良い、と思えてしまったのも、本当の気持ちだ。
映画そのものがメッセージ
これは凄い。塚本晋也監督の『作らなければいけない!』という気迫が全編に漲っている渾身の作品。
レイテ島の美しい風景と対比するグロテスクな人の姿。その妥協無き表現。目を背けるな!これが戦争なんだ!というのを突きつけられた気がした。
低予算・独自配給ということだが、限られた中で描きたいものを貫いたという姿勢に自分は心を打たれた。
塚本晋也監督にしか作れない戦争映画
演者達の激しい演技、何度もやってくる強烈なグロテスクシーン、強く伝わってくる「反戦」というメッセージ、この映画の全てに心を揺すぶられました。
塚本晋也監督を始めとする映画スタッフの方々全てに感謝。
すごいですよ
塚口サンサン劇場の爆音上映で観ました。
見てる間、「あ、俺瞬きしてないや」と何回か感じるくらい、テンションがず~と続く映画です。特に白旗上げてアメリカ軍に投降しようとしたときの「あぁ俺はこの大きな罪の当事者であり、被害者じゃなく悪者なんだ」と気付くシーンは本当に恐ろしいです。関西地区にお住みのかたはぜひ今週ごらん下さい!
正気じゃやっていけないような世界
テーマ的にも遺体や負傷の描写からも、グロいものが苦手な人には向いてない。「地獄の目示録」とかみたいな、正気じゃやっていけないような世界だった。自分の安心や生き残ることを最優先にすることは、決して悪いことでは無いんだけどな。
リリー・フランキー演じるところのイヤラシサ
昨日、川越スカラ座で、『野火』監督塚本晋也を観た。
後半のモブシーンでは血肉飛び散る質感がかなりリアルなのである。言い換えれば“戦争スプラッタームービー』と言える。鮮やかな質感がリアルに映し出されるのは市川昆監督のモノクロ版とは明らかに違っていた。
人間は極限状況に追い込まれると凄まじいものだ。特にリリー・フランキー演じるところの安田のイヤラシサ。臆病な人間の奥底に潜む汚い複雑な駆け引きが見え隠れするところが酷く悲しく、憎たらしく悪らつな笑みとともに非常な無気味さを感じる。リリー・フランキーの名演、素晴らしい演技だ。と思いつつもリリー・フランキーという奴は本当にイヤラシイ奴なんだなんて思い込まされてしまうほどの迫真の演技であった。
太平洋戦争で南方のジャングルにおける人肉食が事実なのかはよくわからないのだが…。しかし、水木しげる氏の戦記を読むと食料不足で極端な栄養失調とマラリアなどの伝染病病に苦しみ多くの日本兵が亡くなった事が書かれている漫画を読んだことを思い出した。そして、大岡昇平の原作小説も読まなくてはならないと思う。
この映画を観れば本当に戦争がヤバイのは歴然たる事実であることに間違いない。
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