「美しいわけがない」野火 ミカさんの映画レビュー(感想・評価)
美しいわけがない
肉片が散乱し、ウジが大量にわき、唇を真っ赤にして人肉を貪る。想像以上のおぞましさにしばらくの間、スクリーンを直視することが出来ずにいました。
この作品はあくまで田村一等兵ひとりの体験がベースです。100人の兵隊がいれば100通りのおぞましい体験が各々にあったのではないでしょうか。もちろん、田村一等兵以上の体験もあったかと、容易に想像がつきます。
昨今、戦争を美化する様な作品もありますが、私は「野火」の様なおぞましさ以外に戦争の真実はないと思います。
というのは、10年程前にひめゆりの塔を訪れた際に、ひめゆり学徒隊だった語り部のおばあから「映画ひめゆりの塔(1953)で、キャベツをボールにして遊んだり、笑ったりするシーンがあったけど、あんなことは微塵もなかった。楽しいことや美しいことは、ひとつもなかった。あれは映画だから。」と聞いたからです。
塚本監督は、映画だからという理由ではなく、戦場の真実をフィルムにしました。それは、人の身体は簡単にバラバラになり、腐敗しウジがわくこと。そして、異常な環境にもやがて慣れ、人を殺せる様になるということ。
そして、この戦場に敵は不在です。何の為にこの場所にいるのか、もはや誰も分かりません。日本の為なのかどうかも、誰も分かりません。分かることは、日本という国家が想像を絶するほどに「狂っていた」というたったひとつの事だけです。
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