劇場公開日 2014年12月13日

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「丁寧な暮らし系」自由が丘で 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0丁寧な暮らし系

2023年6月5日
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ホン・サンスってアレでしょ、ウェットな黒髪ボブでオン眉で個人経営のタバコが吸えない喫茶店とピラティスとパクチーと観葉植物が好きな30代半ば魚類顔の女が平日の業後に渋谷のヒューマントラストで観るやつでしょ、という偏見ありきで初めて臨んだホン・サンス作品だったのだが、結果から言えば俺の偏見は概ね間違っていなそうだ。

とにかくあらゆる夾雑物が取り払われていて、必要なものごとだけが必要なぶんだけ配置されている。そしてそれらすべてが正常に機能している。にもかかわらずスタンリー・キューブリックやロイ・アンダーソンのような神経症的な作家の作品とは正反対の心地よさ。時系列のシャッフルといういかにもSF的でギーク的な手法も質素な手つきでサッと捌いている。ゆったりとしたトーンの中を漂うタバコの煙はまるで上品なお香のよう。徹頭徹尾「健康に無菌的」な映画だ。こういうのを「丁寧な暮らし」系と呼ぶんだろう。え呼ばないんすか、じゃあ俺が呼びますね。

生活のトーンを一定化させることに心血を注ぐ人々にとってはこの上なくハマる映画なんだろうなと思う。一般的な韓国映画にありがちな絶叫も暴力もミステリーもこの映画には存在しない。気の利いた大人の恋愛があって、そこにいくつかの気の利いた回り道があるだけだ。

ただ残念なことに、俺は生活のトーンを一定化することにそもそも興味がない。むしろ一定かと思われていたものが何かとの関わりの中で少しずつ変貌していくこと、あるいはそれに対する漠然とした不安に俺は惹かれる。ゆえに今一つ作品に乗り切れなかったというのが正直なところだ。

何はともあれまだ1本目なのだからもう少し見ていかないことには何とも言い難い。冒頭に述べた偏見が徐々に瓦解していくことを祈るばかり。

因果