劇場公開日 2014年11月22日

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オオカミは嘘をつく : インタビュー

2014年11月20日更新
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タランティーノ絶賛スリラー手がけた監督コンビが語るイスラエル映画

ザ・マッドネス 狂乱の森」でデビューを飾ったアハロン・ケシャレスナボット・パプシャド監督。イスラエル発のスラッシャーホラーを手がけ、話題となったふたりが放つ新作は、イスラエルの社会問題を題材にしたスリラー「オオカミは嘘をつく」だ。同作がクエンティン・タランティーノの猛プッシュを受け、若手監督コンビがイスラエル映画界を担うべき存在として注目を集めている。(取材・文・写真/編集部)

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少女惨殺事件をめぐり、手荒な捜査を行う刑事、気弱で善良そうな容疑者、娘の復しゅうを誓った父親が三つ巴となり、残虐でスリリングな心理戦を展開する。事件解決のための暴力、娘が受けた仕打ちを拷問として繰り返す行為は、正義と言えるのか。何をもって悪と定義するのか。本作は、見る者の倫理観が問われる。

事件の犠牲者となる赤いワンピースの少女は、まさにおとぎ話に登場する「赤ずきん」。スローモーションの美しい映像でとらえた無垢な赤ずきんの世界が、次第にダークに染まっていく。原題「Big Bad Wolves」ではオオカミが複数形になっており、悪者(オオカミ)が容疑者だけではないことを示唆している。ケシャレスは「『何が人をオオカミにするのか』ということを観客に問いかける映画にしたかった。厳しい状況に置かれた時、人間性はどうなるのかという道徳的なテーマを投げかけたかった」と説明。そして、「どんな人間でもそうなる可能性があるということ」「どこまで容疑者に復しゅうし、正義を問うことが許されるのか」を観客に考えてほしいと話す。

大人が子どもに読み聞かせるおとぎ話には、さまざまな教訓が隠されている。本作は赤ずきんだけではなく、「ヘンゼルとグレーテル」「眠り姫」などおとぎ話を連想させる要素がちりばめられているが「大人になるとお話に登場していた悪いオオカミが、小児愛好家や(子どもたちに対する)捕食者だと理解します。危険に満ちた世界で自分たちは狙われているという意識のなか育つことで、隣の人に猜疑心を感じたり、妄執にとり付かれた大人になってしまう。だから、おとぎ話を通じてパラノイアを植え付けた大人、次の世代にパラノイアを生みつけてしまうことへの不安に対するリベンジとして、この映画を作りました」(ケシャレス)

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ケシャレスとパプシャドは、誘拐やテロなど危険と隣り合わせのイスラエル社会にインスパイアされている。そんな生活が、ふたりの作品づくりにブラックユーモアをもたらした。

「イスラエルという国はもともとシニカル。ヘブライ語の映画は政治や軍物ばかりで、ホラーのようなジャンル映画は『ザ・マッドネス』までつくられていませんでした。日常的に悲劇的側面があるイスラエルでは、ダークな人生観とシニカルなユーモアが育っていて、イスラエルで生まれ育った僕らが脚本を書くと、自然と染み出てくるんです。だから、ひとつのシーンにユーモアと悲しみ、『もののあわれ』が介在しているのだと思います。日本でも、同時にふたつの側面を感じられる独特の映画がつくられてきたことと同じなのではないでしょうか」(ケシャレス)

「政治物や機能不全な家庭を描いたドラマ」が主流だったイスラエルに、スティーブン・スピルバーグジョージ・ルーカスらによるエンタテインメントが流れ込み、アメリカ文化がイスラエルに大きな影響をもたらした1980年代。いわゆるポップコーン映画に親しみ、幼少期を過ごしたというパプシャドは、「イスラエル映画を見ようと思っても、ブルーになるようなシリアスなものばかりで、見たいものがなかった。子どもとしては『スター・ウォーズ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が見たかったんですよね。だから、僕らがつくり手になった時には自分たちの言葉、つまりヘブライ語でポップコーンとコカ・コーラを片手に楽しめる映画をつくりたいと思っていたんです」と振り返る。

「面白さ(fun)」不足のイスラエル映画界に、ホラー・スリラーで切り込んでいるが、「娯楽という意味で楽しめる映画であることはもちろん、ジャンル映画は社会や政治を映すことができるんです。これまでつくられてきたイスラエル映画のように、一目瞭然で政治的映画とわかるものより、ジャンルを入り口にして社会や政治に触れた物語の方がクレバーだと思うんです。前作は全然予算もなかったんですが、いろんな俳優さんがこぞってやりたがってくれて、今回も名だたる俳優さんが出たいと言ってくれた。『ザ・マッドネス』をきっかけにそういう動きができて、今ではそういった企画が練られるようになったんです」(パプシャド)

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ザ・マッドネス 狂乱の森」「オオカミは嘘をつく」と共同でメガホンをとったふたり。共同監督としての作品づくりのうえで欠かせない、厚い信頼関係を明かす。

「心配事や作品に対する思いを分かち合う人がいないと、すごくさびしい気持ちにとらわれるけれど、一緒にやっていれば互いに責任を擦り付け合えるし(笑)、分かち合える。現場でいやなことがあっても、もうひとりが引っ張りあげてくれるし、技術的にもふたつの目で見ていたものが4つの目で見ることができるようになります。僕らはもともと友だちで四六時中一緒にいたので、ケンカする必要なんてないんです。この前僕が結婚したので、これから少し離れる時間ができると思うけれど、一緒にやることは助けになるし、いいものがつくれるように思うんです」(ケシャレス)

「初のイスラエルホラー、ジャンル映画の第一波ということで、『ザ・マッドネス』製作時は特殊メイクや効果の経験がほとんどなく、僕たちが教えなければいけなかったんです。手探りで僕らなりにつくった映画が世界で認知されて、冒険が始まったんですが、大親友といろんなことを分かち合いながら世界中を回る以上に楽しいことなんてないです。僕がふたり(ケシャレス夫妻)の子どもみたいな状態になっているけど(笑)、イスラエルではふたりがひとつの脳を分かち合っているんじゃないかと言われるくらい似ているんです」(パプシャド)

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