劇場公開日 2015年1月24日

  • 予告編を見る

「新宿とお台場」さよなら歌舞伎町 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

1.0新宿とお台場

2015年3月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

 いくつかの男女の物語が並行して語られるが、重要なものは松重豊と南果歩の時効を迎える夫婦と、韓国人のカップルのエピソードではなかろうか。
 松重と南のアパートでの生活が紹介されるシークエンスでの二人のキスがとても印象的。このキスシーンがあればこそ、このあとに出てくる数々の性的な描写を落ち着いたトーンのそれとして受け入れることができたのではなかろうか。
 そして、デリヘル嬢をして稼いでいる韓国人の女と、日本人の女の相手をして小遣いを稼いでいたその恋人。この二人の物語だけで映画を一本撮ってもいいくらいに、このエピソードがこの作品の中枢をなしているように思った。
 別れ話で涙を見せまいと、男の作ったキムチハンバーグ(どんな食べ物なのか想像もつかないが、、、)を女が無理に頬張るシーン。それと、お互いの秘密を知った二人がラブホの浴槽で向かい合う長いカット。キム・ギドクでも観ているかのような切なさを感じさせる。被写体の二人が韓国人であるからではなく、この二人の科白を排した演技がキム・ギドクを思わせるということだ。

 映画鑑賞のためにしばしば訪れる新宿の靖国通り界隈。毎日夥しい数の人間がそこへ吸い寄せられるのだが、そこに留まることを望むものはいない。そうした街としての新宿の対義語として、お台場の街の名が主人公の口から出てくることが面白い。
 みんなが憧れるお台場は、しかしその街へ行く目的も、留まることが許される理由も、限られた人間にしか与えられない。新宿が誰でも受け入れてくれる街であるのに対して、お台場は限られた者にしかアクセスされない。新宿は何の用もなくふらふらできるのだが、お台場はそこにある高級ホテルやショッピングセンターに相応しい人間にしか開かれていないのだ。
 今の東京、いや世界の都市で、増大しつつあるのはどちらのタイプの街だろうか。

佐分 利信