「すごく素晴らしかった」くちびるに歌を 古泉智浩さんの映画レビュー(感想・評価)
すごく素晴らしかった
どこをとっても素晴らしかった。歌がすばらしくて、歌や音楽の感動が当然のようにあるのだが、それだって考えてみればうまくいく場合といかない場合があり、この映画は最大限うまくいっているのではないだろうか。大前提として世界の素晴らしさを肯定している目線で、それを信じたい気持ちになった。
この映画の中で自分が誰に一番近いかと言うと、主人公のろくでなしのお父さんだ。オレにも3回しか会ったことのない、言わば捨てたも同然の娘がおり、結果的にそのようなケースになっていて、引き取れるものなら後も先もなく引き取りたいし、赤ちゃんの時にオムツの交換や寝かしつけをしてあげられなかったことをとても後悔している。彼女もそろそろ中学生になろうとしている。しかし、そんな自分を捨てた父親が合唱会場に見に来てくれているのではと、期待している主人公のナズナちゃん!そんな表現をしてくれて本当にありがとうございます!と言いたい。
歌がとにかく素晴らしかった。優勝はできなかったけど、携帯を通じて、出産中の先生に聴かせようとするのがすごくいい。結局、歌を歌う、それが目的になっているのはどうなのかという問題提起にもなっており、歌を歌うとしたら一体誰に聴いて欲しいのか、とても重要な事を語っている。オレはこれまで漫画を、20代の時に読んでいた当時のヤンマガ読者に向けて描いているのだが、果たしてそれでいいのか。そのまま20年以上も続けてきてしまった。だから売れていないのではないのか。そういう問題ではないのかもしれない。
新垣結衣ちゃんが、非常に感じの悪い女を演じていて、嫌だなと思っていたのだが、どうしても完全に嫌いにはなれなかった。美人だからというわけではなく、彼女の乗っていた車が生徒に鉄くず同然と言われるほどポンコツのおそらくMTのトラックで、そんな車を平気で乗り回す人が憎むべき人であるわけではないと思わせられた。
とにかくすごくよかった