「山も映画も目的を見失ったら遭難する」エヴェレスト 神々の山嶺(いただき) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
山も映画も目的を見失ったら遭難する
まずは原作者名を見てびっくり。
夢枕獏?
「陰陽師」の人?
ああいう伝奇モノだけじゃなく、こういうのも書くんだ…。
山岳カメラマンの深町は、ネパールで伝説のクライマーとして名を馳せ消息を絶った羽生と遭遇。今尚前人未踏の挑戦を狙い続ける男を追う…。
邦画にも山岳映画は結構多い。
古くは「銀嶺の果て」「八甲田山」「聖職の碑」、近年も「劔岳 点の記」「岳 ガク」「春を背負って」などなど。
身震いするほどのそびえ立つ山もあれば、平坦な山も。
監督は平山秀幸、出演に岡田准一、阿部寛、尾野真千子、一流のスタッフ・キャストによる山岳アタックは、そびえ立つ山に並べるか、平坦な山に甘んじるか。
邦画史上初となるエヴェレストで敢行したロケ。
その映像は雄大。
過酷さが伝わってくる…と言いたい所だが、吹雪のシーンなど明らかにCG合成シーンがあり、危険性やクルーの苦労は察するが、ちょっと本気度が薄れたのも事実。
ここは妥協しないで欲しかった。
今や日本映画界を代表する役者として手堅い演技を見せてきた岡田准一だが、今回は相手が悪かった。完全に喰われてしまった。
阿部寛が圧倒的な存在感。
山への狂気とも言える執念を体現。
クライマックスでも鼻水垂らして岡田准一が熱演しているのに、“微動だにしない”阿部寛の方に凄みを感じてしまった。
自己中心的で尋常じゃない情熱を持つ羽生。
動機も目的意識もハッキリしており、何故山に登るのか…に対する台詞も熱い。
が、彼に感化・影響される側の深町の描写がちと弱い。
彼が何故羽生に魅せられ、何故彼もまた羽生を追うように山へ向かうようになったか今一つピンとこない。
冒頭にエヴェレスト初登頂の真偽を巡る実在の登山家のエピソードが挿入されるも、特に伏線にはならず。
クライマックスの二人の“対話”もチープ。
尾野真千子演じるヒロインの必要性も感じられず。
山あり谷ありとはならず、単調な展開が続く。
山で多大な経験をしたのに受け止め切れず、どうやって下山したらいいか迷ってしまった、という印象。
一心不乱にただひたすら頂を目指す。
それが山岳映画の一本筋の通ったドラマの重みになる。
何を言いたかったのか焦点が定まらない山岳映画は、それこそ山で遭難するようなもの。
漫画実写の「岳」よりドラマチックではあるものの、エンタメ性では負ける。
ベタだった「春を背負って」よりも魅力を感じず。
「八甲田山」「劔岳」などの名山に並ぶ事が出来なかった所か珍獣ハンターの山岳挑戦プロジェクトの感動にも及ばず。
平坦な山(映画)だった。