「痛みの元を見つめる」きみはいい子 だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
痛みの元を見つめる
3つの短編小説を元にした映画です。
学級崩壊を起こす教師とネグレクトされてるっぽい小学生の話と、
幼い娘に暴力を振るってしまう母親とママ友の話と、
認知症が始まりかけてる老女と自閉症の小学生の話が、
クロスオーバーはせず、同じ町で同時に起きてるという設定で作られています。
老女と自閉症の小学生の話は、ひろやくん役の子役がとても上手だなと思ったのと、彼が語った幸せの定義がとてもいいな、彼はちゃんと知ってるんだなぁ、賢者だなぁと思いました。
教師の話は、児童への観察が甘すぎる高良くん演じる岡野先生にかなりはらはらしました。
星さんへのいじめの芽を抽斗に押し込んで忘却し、失禁した生徒を傷つけ(多少不可抗力ですけど)、生徒になめられ学級崩壊…星さんは登校拒否。
救いようがないぬるま湯くんですが、甥っ子に抱きしめられて何かに気づき、少しだけ変わりました。
家族に抱きしめられてくる宿題を披露する児童の表情がとても良かったです。
そして、少しだけ視野が広がった岡野先生は、いつも鉄棒のそばにいる神田さんが、何故鉄棒のそばにいるのか、気づいたようでした。
神田さんは給食費を滞納されていて、でもご飯は給食しか食べてないかもで、5時まで帰宅させてもらえなくて、たぶん継父に殴られている。
だぶだぶの同じ服しか着てなくて、それは彼のせいではないのに、自分が悪い子だと思っている。
だからサンタさんが来ないんだと、自分を責めているのです。
スクリーンの神田さんを見つめながら、
どっかの県で給食費滞納家庭の子供には給食を食べさせない方針を決めたところがあるというニュースを思い出しました。
子供には責任のないことなのに、不利益を被るのは子供。やるせないです。
この件での学校の決定が間違ってるとは思いません。悪いのは、自分の子供を愛せない親。でもその親にも事情があるかもしれない。
やりきれない思いがぬぐえません。
岡野先生が神田さんの家のドアを叩く決意をしたところで物語が終わってしまうのでえっ?と思いましたが、これ、小説のラストのまんまなんですよね。だからまぁ仕方ないですね。
岡野先生がなんとか神田さんを助けて欲しいと、思います。
そして、娘を殴る母の話です。
このパートが1番感情がかき乱されました。
尾野真千子演じる母が、ほんの些細な失敗をする幼い娘を、それは子供ならばしょうがないレベルの些細なことなのに、言いつけを守らなかったことに激昂して殴ってしまいます。しつこくしつこく。
このシーンがきつかったのです。
なぜなら子供時代を思い出すからです。
私の母も時々こうなり、殴られたからです。
別日にこの映画を観た友人が、あんなに殴る親なんているのかな?信じられないと言っていて、あぁ、彼女は理不尽に殴られてきてないんだなぁと思いました。
いいはしませんでしたが、私は思いました。
あれは、本当によくあることなんだよ、と。
尾野真千子演じる母も、虐待されていたようで、殴る自分を憎んでいるようでした。
虐待する親の欠落は、自己肯定感だと私は分析しています。自分が好きじゃない、自分に自信がない、だから子供が自分のいうことを聞かないと自分を馬鹿にされたと思うのだと思います。ざっくりといえばですが。
暴力は力の誇示だとおもいます。
殊更に暴力に頼るのは、相手にそれでしか自分を認めされられない、畏怖させられない、振るう側の弱さの表れだろうと思います。
自己肯定感の欠落は、子供時代に植えつけられた虐待の後遺症であることが多いように思います。あやねの母もそのようでしたし、私の母もそうでした。
あやねの母は、池脇千鶴演じるママ友によりそわれることで、少しだけ立ち止まれそうでした。池脇千鶴も子供時代に虐待を受けていた。でも、助けてくれる人がいて、自分を好きでいられ、今、子供に歪んだ支配をしていない。助けてもらって生き延びられたと思っているから、あやねの母に関わってきてくれたようでした。
物語の中では、特に何も解決していません。
ただ立ち止まれただけです。
あやねにどう贖罪してゆくか、そのためには、自分自身がどう虐待されていた過去と向き合うか。課題はありますが、まずスタートラインには立てたのだと思います。
私の母も苦しみ、カウンセリングを受けて、自分の子供時代の苦しみを分析し、折り合いをつけていたようでした。
今では随分落ち着いたようで、豹変するところは長い間見ていません。
ただ、私とは少し距離があるままです。
やはり私は母を心から許すことができないのです。
それと同時に、神田さんと同じく、私が悪いからお母さんは叩くんだ、私を嫌いなんだという気持ちも捨てられません。
自己肯定感も薄いと思います。ですが、それではいかんというところまでは辿り着いているので、今は程よい自己愛を育むことが目標です。
大分ましになって来た気がしています。
私にとっての池脇千鶴的役割は、映画やドラマや小説や漫画などの物語なので、今もこうやって、いろんな物語に触れているのです。
本編とは離れたことを、そして人様は全く興味がないかもなことをつらつらと書いてしまいました。お目汚しすみません。
自分の過去と所々重なって、苦しいけれども、なにか光が見えるような映画で、とても良かったです。
呉美保監督の映画は全部見てますが、ハズレなしです。同郷なので、ちょっと親近感です。