「視線と背中で大切な主題を描いていく秀作」きみはいい子 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
視線と背中で大切な主題を描いていく秀作
クリックして本文を読む
新任教師の岡野(高良健吾)、幼い娘とふたり暮らしの母親・水木(尾野真千子)、小学校近くの一軒家でひとり暮らす老女・佐々木あきこ(喜多道枝)、三様のエピソードがほぼ並行して描かれる。
いわゆる群像劇だと、これらのエピソードが絡み合って、最後にピタリとひとつになったりするのだけれど、この映画ではそんなことはない。
そういうおもしろさに着眼した映画ではない。
ただし、一貫した主題は核として存在する。
「誰かにやさしくしたことは、自分にも戻ってきて、やさしくしてくれる」
些細なこと(本人にとっては大層なことだけど)で落ち込んでいた岡野を慰める際に、岡野の姉が自分の幼い息子にいう台詞だ。
台詞は、こう続く。
「(幼い息子に向って)ほら、おじさん(岡野のこと)を抱きしめてあげなさい」と。
この抱きしめることがこの映画の主題なのだけれど、そこへ至るまでを呉美保監督は丁寧に演出しています。
この丁寧な演出は、登場人物たちの心の動きと、関係性の距離感を、ふたつの画で説得力をもって描きます。
ひとつは、視線。
登場人物たちは、何を見て、何から目をそらそうとしているか。
水木のエピソードでは、特に顕著です。
もうひとつは、背中。
登場人物たちは、周囲とどれぐらいの距離にいるのか、孤立しているのか、寄り添うひとはいるのか。
そういうことを、しばしば登場する背中を向けた画で観るものに働きかけていきます。
この背中の画は、岡野と佐々木あきこのエピソードで、顕著です。
この映画は、語っている内容も素晴らしいのですが、その語り口がさらに素晴らしいのです。
コメントする