「まさかこんな話だとは。」岸辺の旅 Xさんの映画レビュー(感想・評価)
まさかこんな話だとは。
レビューを見る限りでは予告編を冗長にしただけという意見が散見されておりましたが、個人的にはそんな印象は皆無です。寧ろ180度逆転させられました。
予告編の印象だと、死んだ夫と別れの為の旅をする、そんな悲しくて陰鬱な旅路の話だろうと。ですから私は泣きに劇場に足を運んた訳ですが、正直驚きました。まさかこんなに前向きな作品だったなんて。
思い切りネタバレから入りますが、これは
「夫との離別を悲しむ話」ではなく、「死、離別を乗り越えて夫との愛を再認識する話」なんです。一見暗いようでものすごく明るい話だったんです。
見終わったあとの爽快感はすばらしいものがありました。
ただ、惜しむらくは恐らく原作が相当長いのでしょう。一言一言の含蓄が深すぎる。聞き逃すとその場面の主題が掴めなくなる。結局私も本編を見ている間は本映画の主題を捉えそこね続け、見終わったあとは漠然と疑問を持つのみだった訳なのですが、その後一つ一つの場面を思い返してメモとペンを片手に分析していくと漸く先述した主題が掴めました。一つの難解な国語の文章題を解ききった様な爽快感があり、その後じわりとこの幸福な物語が脳髄に充満しました。何が言いたいかといえば、話自体、主題自体は大変素晴らしいものであるが、その理解はかなり難易度が高いということです。
私は映画を頻繁に見るわけではないので、映画好きな方なら違う見方を出来るのかもしれませんが、正直茫漠とした視点で見ているだけでは浮気のイザコザシーンぐらいしか解釈が叶いませんでした。あのシーンだけは象徴表現も少なく、かつ単純な二項対立なので至極わかりやすいのです。
その難解さを愛せるなら、本映画は十全にお薦め出来る最高の作品です。
難解故に「もう一度見たい」と思わせる映画でもありますから。