劇場公開日 2015年1月17日

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「修復師は「後世まで残る絶対的な修復は行わないのだ」と知ったことの驚き」ナショナル・ギャラリー 英国の至宝 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0修復師は「後世まで残る絶対的な修復は行わないのだ」と知ったことの驚き

2025年4月28日
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鑑賞方法:VOD

ここのところ
「市庁舎」や「図書館」や「美術館」」を、つまりその箱物自体を主人公に取り上げたドキュメンタリー映画が目白押しだ。

たっぷりの尺を取って、どうせ興行的に成功させるよりも文化財の映像記録として、箱物と収蔵物、そしてそこに働くスタッフの人知と歴史を、後世に残すための「アーカイブ映画」なのだと思う。

他作「サルヴァドールムンディは誰の手に」でレオナルド・ダ・ヴィンチの新発見の一枚を、真贋論争の中で決断し展示を敢行した大英博物館。

以下、館員の生き生きした表情がドキュメントされる。
たとえば ―
◆そのサルヴァドール・ムンディが見える展示室でのシーン。学芸員がダ・ビンチ展を企画した結果「ひとりの画家の作品を一堂に集める事で生まれる意味」を語る。
作品同士が互いに語り合いを始める驚きについて学芸員は高揚して語るのだ。

◆また、別のスタッフからは光と漆黒の画家ルーベンスを題材に「絵が描かれた『その場所』を突き止め、キャンバスに差していた光線の向きを調べて、当時の自然光の元にこの絵を戻すという絵の見方」、そしてそれを無視しない展示の工夫についても極意が聞ける。

◆ベラスケスの修復師は
何か月にもわたる洗浄のあとで、新しいワニスを塗った上で、その上に修復の絵筆を入れるのだと説明する。つまり将来の修復のためには大英博物館は15分で落としてしまえる加筆をすることによって、原作をいじってしまう絶対的な修復作為は行わないという驚くべき姿勢を説く。

もちろん館長も、オフィスに座っているお飾りの=天下りの役人ではなく「プッサンの彫刻的画法」について絵の前で観客に解説をする。

優秀な館長、運営、評議員会、学芸員、キュレーター、企画、照明の研究家、修復師・・
これらの人々がどれだけの熱意をもって美術館全体の運営に関わっているのか、
そこが見どころなのだ。
美術館は生き物なのだと分かるのだ。

ドラマとは違うので、鑑賞者側も1シーンずつ止めながら、メモを取りながら、時間をかけて見ることが出来て、そこが嬉しい。
映画館ではキツイでしょうね、僕はDVDで、10回くらいに分けて観ました。

・ ・

大英博物館にはまだ行けていない。

世界は広い。
大英帝国がやらかした植民地時代や戦時の交戦国からの略奪品の宝庫である事実も知っているが、
(申し訳ないけれど) ああやって収蔵品を一箇所にまとめてくれていると、観光客の自分としてはホントに有り難いと思ってしまう。

きりん
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