「和製ゾンビ映画の一つの形を作った快作」アイアムアヒーロー どいたまさんの映画レビュー(感想・評価)
和製ゾンビ映画の一つの形を作った快作
何よりもまず、この映画の一番の魅力は本作品『アイアムアヒーロー』のオリジナルゾンビである「ZQN」の気持ち悪さです。
本作で最初にZQNとなってしまう、英雄の彼女”ゆっこ”のZQN覚醒シーンが、とにかく気持ち悪い!
非人間的な動きをするZQNの存在感に説得力があります。
また、ZQNは、”ゾンビになる前の日常動作を繰り返す”、特殊な性質を持つことが原作でも語られています。
この”一見普通の人間に見えても実は恐ろしいゾンビ”であるZQN達が、人々が集団生活する都市部にいると、誰がZQNで誰が人間かわからなくなってしまう、という恐怖。これを映画開幕30分ほどで、音の演出やワンカット表現などによって、キッチリと演出してくれます。
原作漫画も、多くのコマを使って一つのシーンを描くことで動的にストーリーを展開する、視覚的な表現に優れた漫画です。この視覚的な表現は、映画が最も得意とする所であり、そこをきっちりと表現できている。この点だけでも、映画化した価値は十分にあったと言えます。
また、主人公の英雄が負け犬から真の英雄と呼べる男になっていく過程の描き方も見事!
英雄の彼女、ゆっこの立ち位置を原作から少し改変し、英雄が負け犬であることの被害を全面的に被る立場を強調していることで、英雄のクズさを際立たせています。
そして、英雄がついに殻を破ろうとする場面をこれでもかと言うばかりにしつこくしつこく描写する、クライマックス直前のロッカーパートも見事!!その後、英雄が銃を撃つシーンをクライマックスに配することで、英雄の覚醒を華やかに描いています。
ただ気になったのは、有村架純演じる比呂美の存在価値があまりに矮小化されている点です。
原作では、この”ZQNに噛まれたのに完全にZQN化しない”比呂美の存在に、人類の希望が託されるはずなのですが、本作ではその部分が全く描かれません。これほど存在感がないのであれば、登場させなくてもよかったのでは?とまで思ってしまいます。
それから、後半に進んでいくに従い、ZQNの襲撃描写が、画面の端から突然現れるだけになっていた点も気になります。
気になる点は他にもいくつかありましたが、そんなことも気にならないほど魅力が詰まった一作です。
本作は「日本でもこんなゾンビ映画のが作れるのか!」という感動にとどまらず、新しい和製ゾンビを描く劇映画として、日本映画の新たな歴史を予見させる一作だと思います!!