アイアムアヒーロー : インタビュー
大泉洋&有村架純、世界の映画ファンを熱狂させた衝撃作の苦悩・確信・可能性
日本では珍しい本格的なジャンルムービー大作が誕生した。極限のパニック状態×恐怖の生命体×手加減なしのアクションが詰まった「アイアムアヒーロー」は、世界三大ファンタスティック映画祭を制覇という偉業を成し遂げ、米SXSWでも観客賞を受賞。劇中で命がけのサバイバルを繰り広げた大泉洋と有村架純が、世界の映画ファンを熱狂させた衝撃作を語った。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)
退屈な日常が突如、崩壊する。原因不明の感染により理性を失い、人々を襲う凶暴な生命体ZQN(ゾキュン)であふれかえった街。何が起きているのか、どうしたらいいのかもわからない。「GANTZ」「図書館戦争」シリーズで原作の世界観をスクリーンに構築し、迫力のアクションを撮りあげてきた佐藤信介監督は、観客を主人公・鈴木英雄ともども大混乱の渦に放り込む。原作は、花沢健吾の同名漫画だ。
主演の大泉は、「僕も男の子だから、お話をいただいた時はヒーローになれるのかなっていうワクワク感はありましたね。役者をやっていて、特に私みたいなキャラですと、自分がヒーローになるような映画ってなかなか出られないので(笑)」とオファーを受けたときの心境を語る。有村も出演決定後に原作を読み、「本当に面白そうって純粋に思ったので楽しみでした」と期待に胸をふくらませた。佐藤監督なら原作の世界観を再現できると確信していたようだが、「iPadに絵コンテがもうあったので、佐藤監督のなかで画が完璧に出来ているんだなっていうのにビックリしました」と明かす。
大泉扮する主人公の英雄は、35歳の漫画家アシスタント、恋人に愛想を尽かされる寸前だ。「英雄ってやつが頼りないんだけど、だんだんかっこよく見えていくんです。ただのパニックムービーなだけじゃなく、英雄って男の成長が見られるのが面白いんだろうなと思いますね」。まず外見をコミックに寄せるところから役づくりを始めた大泉が、英雄の成長と同様に重要視したのが有村扮する女子高生の比呂美の存在だ。「逃げる時にたまたま一緒にタクシーに乗っただけの子なんだけど、この人を失ったらパニックになっている世の中で自分は一人になってしまうっていう思いはあったんじゃないかなと思うんですよね」。撮影開始からしばらくは有村と2人だけのシーンが多く、映画の内容とリンクして「比呂美が大事な存在になっていきましたね」と振り返る。
主人公の心の支えとなる比呂美だが、歯のない赤ん坊ZQNにかまれ、人間に危害を加えない半ZQNになってしまう。「人間とZQNの半分半分の気持ちは、誰もZQNになったことがないから分からない」。手探り状態で演じなければならなかった有村は、「絶対、葛藤(かっとう)はあるわけじゃないですか。たとえば、その日1日、人間が勝っているのか、ZQNが勝っているのかっていう気分のムラもあるだろうし」と考察を披露する。これだけでも難役だが、さらにやっかいなことにセリフがほとんどなかった。「しゃべれないから表情で見せなきゃいけないけど、あんまり表情を作っちゃうと人間っぽくなっちゃうし、すごく難しかったです」。
半ZQN化した比呂美が無口になってしまうことは、有村にもうひとつ苦悩をもたらした。「韓国(ロケ)にいていいのかなって、すごく思ったんです。私がいることにちゃんと意味があるのかなって」。この告白に爆笑の大泉だが、「『英雄くんがいたら、大丈夫な気がする』ってZQNになる前に言った言葉をもう一回、回路がつながったかのようにおっしゃるシーンがすごく印象的だった」と助け舟。「難しかったんだろうなと思うけど、僕はすごくグッときたんですよね。やっぱりこの人を守って頑張らなきゃっていう思いになれた、いいシーンだったと思いますね」。
原作の世界観をリアルに再現するために韓国で撮影された映像には目を見張るばかり。タクシーが宙を舞うハリウッド級のカーアクションにも度肝を抜かれるが、現在は閉鎖されている商業施設を改装して撮影された、後半からクライマックスにかけてのアウトレットモールのシーンは壮絶だ。有村が2年前の夏の情景を、「ZQNが本当に生々しかったので怖かったですし、銃声とかもすごかったです。暑かったから、屋上のシーンもみんな汗だくになってやっていました」と鮮明に描写する間、大泉は相づちを打つ。「最後の戦いは本当にどれだけ倒してもきりがないというか。もう延々と撮ってたねえ」と思わずもれた笑いに、その過酷さがうかがえる。
そして、キャスト・スタッフが精魂込めた本作は、世界三大ファンタスティック映画祭を制覇。ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭で最高賞にあたるインターナショナルコンペティション部門ゴールデンレイブン賞に輝き、シッチェス・カタロニア国際映画祭、ポルト国際映画祭ではそれぞれ観客賞を含む2冠を達成。米オースティンで開催された映画・音楽・インタラクティブの祭典SXSWのミッドナイターズ部門でも観客賞を受賞した。「やっぱり映像の力がすごかったんじゃないですかね」と佐藤監督の手腕を称える大泉。公式上映に出席したポルト国際映画祭では「(賞を)とりたい!って思いがあった」ので、「とれるなんて思ってもみなかった」ブルーリボン賞の受賞とは違う喜びだったとじょう舌に拍車がかかる。ちなみに、どの映画祭でも英雄が初めて銃を撃つ場面は拍手喝采だそうで、「本当にすごいんだなって。この映画の力を思い知った感じね」と力を込めた。
英雄の銃撃シーンは、変わりたいのに変われずにいた男がついに一歩を踏み出す決定的な瞬間だ。そのような人生の転機を2人は経験しただろうか。有村が「やっぱり出会いじゃないですかね。監督からもらった言葉とかで、変われたなって思うこともあるし、このままじゃだめだなって思ったこともありました」とまっすぐな眼差し(まなざし)で語る。一方の大泉は、大学時代に演劇を始めたことだと即答。しみじみと「自分でも、よくやったって感じ。あれがなかったら今頃どうなっていたか」と口にした。
最後に海外での仕事に興味があるか尋ねたところ、大泉と有村は顔を見合わせ、互いに「ふふふ」と探り合い。まず、「ハリウッドとなると大きすぎてまだよくわからないので、日本でまず頑張ってからですね(笑)」とさらなる成長を誓ったのは有村。対する大泉はオープンな姿勢。「僕が北海道のお仕事から、全国のお仕事をするようになったときのように、世界ではどうやって撮るのかなって興味はありますよね。いい機会があると、それはそれでおもしろいですよね」。