at Home アットホーム : インタビュー
竹野内豊が「at Home」で“家族”の先に見つめた “人とのつがなり”
家族をテーマにした映画は数多とある。しかし、竹野内豊が主演した「at Home アットホーム」で描かれる森山家は本物の家族ではない。ところが、血のつながりのない寄せ集めの5人組は、本物の家族以上に家族なのだ。そんな変則的な家族の物語から、竹野内は何を感じ、何を考えたのか。見つめる先に浮かび上がったのは、人とのつながりだった。(取材・文/編集部、写真/堀弥生)
森山家は父と母と子ども3人。父・和彦は空き巣泥棒、母・皐月は結婚詐欺師、長男・淳は偽造職人。中学生の長女・明日香と小学4年生の隆史も、子どもながらにそれを承知している。本多孝好氏の同名短編小説を蝶野博監督のメガホンで映画化した本作で、竹野内が演じたのは一家の大黒柱だ。
「比較対象がないところが、まず難しいなと。擬似家族を演じる中でどういう存在でいたらいいのかなとか、そのあたりを撮影に入る前に漠然と考えていたりしました。けど、大黒柱として父親の存在感を出せるかなとか、そういう余計なことは、実際に撮影が始まってみれば考える必要もなかったかな」
母親役に初共演の松雪泰子、長男役に人気モデルで俳優としても目覚しい活躍をみせる坂口健太郎、長女役に進境著しい黒島結菜、末っ子に子役の池田優斗くん。全員が初めての顔合わせだが、擬似家族を演じる上ではそれも功を奏したようだ。現場は非常におおらかで、穏やかな雰囲気だったという。
「みんなが何かを作り出している空気じゃなくて、人間的な部分でにじみ出てくるものっていうのかな。一生懸命、家族を演じよう演じようって感じよりも、すごく自然な感じがしたんですよね」
劇中、和彦のかつての仲間で、今は淳の先輩である偽造のプロ、ゲンジさん(國村隼)がいう。「要するにホンモノに近いかってよりは、どれだけ自然かってことなんだ」。自然と作品のエッセンスを体現していた竹野内は、自身の子どもの頃のことを「みんなでケンカし合うことがあっても、一晩たてばもう忘れちゃっているみたいな。ふつうに話していたり、テレビを一緒に見ていたり。そんな家族だった」と振り返る。そして、「帰れる場所であり、本当に安心できる場所でありたいなとは思いますね。自分もそういう家族がつくれたらいいなと思いますけど」と視線は自身の未来へも注がれる。
ところで撮影前、頭の中にはある映画のイメージがあったそうだ。「ふと思い浮かんだ家族の映画が『旅立ちの時』だったんですよ。まったく違う話ですけれども、どこかこう柱となっているものというか、自分の中では共通する何かがあったんですかね。ああ、あんな素敵な作品に近づけたらいいなって思いましたね」
巨匠シドニー・ルメット監督の名作には、逃亡生活を続ける4人家族が登場する。ストーリーの軸は故リバー・フェニックス演じる長男の成長だが、偽名を使い、世間から身を隠し生きている家族がそれぞれを思い合う姿は、確かに森山家と重なる。
「自分の時間を犠牲にしてまで思い合ったり、そういう姿っていうのはすごくいいなと思ったんですよね。今の現代社会での家族って、ちょっと昔とは変わってきているところがあって。(血縁としては)ものすごく近いのに、(心には)ものすごく距離がある。この家族は血がつながっていないんだけど、みんながどこかで求め合っていて、思い合っている姿を見ていると、血のつながりは一切関係ないのかなとか、血縁というところに重要性はないのかなとか。それをすごく考えさせられましたよ」
そして登場した「人とのつながり」という言葉。「つながっていくことや、その重要性というか、大切というか。そういうことも考えさせられる作品でした。つい先日撮っていた映画(「人生の約束」)も、実は一番のキーワードが人とつながっていくことで、そこが重なるんですよね」
ふたつの作品で「人とのつながり」を見つめ続けてきた竹野内は、身近にあるからこそ見えないものだと指摘する。
「日本人として日本で生活していると、日本の良さがまったく見えない。海外にいて全く習慣が違かったり、そういうところに置かれた時に初めて『ああ、日本っていい国なんだな』と、ふと思う時があるんですけどね。歴史なんていうのも、時を経て、だからこそ壮大に見えたりする。近すぎちゃうと、どうしても当たり前で見えなくなる。人間関係においても、視界の中に入っていて当然、でもそれが実はまったく“見えていない”とか。この映画は、生きてくうえで大事なことを改めて感じさせてくれる映画なんじゃないのかなと思うんです」
心に浮かび上がった情景をすくい上げるかのようにつむがれていく言葉は、自然と本作へと帰り着く。「いいシーンがいっぱいできたなと思います。映画はたくさんありますから、どんどん記憶の中に埋もれていっちゃいますけど、たったワンシーンでも『こんな家族もいたな』ってことが思い出の中に残る映画になるといいなと思いますね」