「影の主人公、服部さん」バクマン。 SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
影の主人公、服部さん
漫画原作の実写映画化として、すごく良くできている。
ざっくりと省くところは省いて、足すべきところを足している。
正確に言えば、「リアリティの焦点」を変えているところがうまく成功している。
原作では、漫画制作の背景や過程にリアリティがあり、それが物語全体の説得力を増し、緊迫感を上げることに貢献していた。
だから、サイコーとあずきの恋愛ドラマに現実味が無くても薄っぺらい感じがなく面白かった。
映画では、原作でこだわっていた漫画制作のリアリティをいさぎよくばっさりと切り捨てている。
原作での漫画そのもののストーリー展開の具体的なところで悩んだり試行錯誤するところも一切ないし、連載がはじまったらアシスタントがつくという当たり前のこともない。
作家が倒れるまで描いたら明らかに担当編集者の管理ミスだが、それを厳しく糾弾されることもなく、作家が無理して描いた原稿でも、それを友情努力勝利だからと掲載OKにする編集長もあり得ない。
それでもこの映画は面白いし、熱くなれる。それはなぜかというと、映像的なリアリティがあるからだ。
より具体的には、漫画原稿、ネーム、ペン先の奏でるカリカリ、漫画編集部、編集会議、といったもの(それはそうだろう。全て本物だろうから…)。
特に漫画原稿の本物っぽさと、美しさはすごい。ペン先の音は冒頭の出だしから印象的に使われている。
漫画原稿そのものや、その執筆風景がかっこよく見えるように徹底的にこだわっている。これは、アクション映画のように派手な見せ場を作れないことに対する対抗策なんだろう。
ストーリーは極限まで単純化されているのだけど、キャラ達は原作のまんまではなく、ちゃんと微妙な調整がされている。
印象深い改変としては、服部さん。
原作ではひょうひょうとして頼り甲斐のあるキャラだが、映画では主人公と同様に悩み、迷い、自信がないながらも自らの道を模索するキャラとなっている。
この改変によって、主人公たちと同じ高校生だけでなく、会社勤めしている人にとっても、物語に感情移入できる。主人公たちの成功をよりハラハラして見守る気持ちになる。
この映画は全体的に細部のこだわりに好感が持てる。漫画原作の実写映画化というと、細部のアラが目立つ、やっつけで作ったいいかげんなもの、という印象になることが多いが、映画用に作ったであろう小物とかも、細かいところまでよく丁寧につくってあるなあ、と感心する(一番凝ってるのはエンドロール…⁉︎ ガモウヒロシの「臨機応変マン」を見つけたときは嬉しかった)。
一つだけ残念だったのは、漫画原稿をぞんざいに扱っている描写が多かったこと。乱暴にひっつかんだり、むき身で持ち歩いたり。執筆してるところでも、手袋したり紙を敷いて描いてる人がいなかった(普通は紙に脂がつくとインクのノリが悪くなるので、素手で原稿を扱ったりはしない)。必要のないリアリティとみなされたのだろうけど、けっこうその辺のビジュアルは重要だと思う。サイコーの指にはペンダコまで作ってるのにね。