「やっちゃいけないことがある」ターミネーター:新起動 ジェニシス アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
やっちゃいけないことがある
ターミネーターシリーズは,1984 年に第1作が作られ,7年後に2,更に 12 年後に3,その6年後に4,そしてその6年後に今作が作られた。初作から 31 年も経っているので,いかにシュワルツネッガーが超人だとしても老化は避けられず,既に 68 歳という年齢は流石に老いを感じさせずにはおかなかった。ターミネーターは人工物なのに何故老化するのかという疑問は,映画の開始から間もなく説明されているのだが,あまりに後付けの理由なので笑ってしまった。これに限らず,この映画のストーリーは後付けのオンパレードで,タイムパラドックスは全てパラレルワールドということで各作品の矛盾点を回避するつもりのようなので,「13 日の金曜日」シリーズのように,もう何でもありの状態になってしまっている。
しかし,いくら何でもありとは言っても,絶対に変更してはならない部分というものがシリーズ物には必ずあるはずである。その変えてはならない部分を無惨にも変えてしまった今作の脚本には,非常に不満というより,怒りのようなものを感じさせられた。この酷い改変は,今作ばかりではなく,過去のシリーズ作の世界観までぶち壊しにするものであった。こんなことが許されるのだろうか?初作の監督のジェームズ・キャメロンは絶賛したと聞いているのだが,自分の作り上げた世界観を根底から覆されて嬉しいのだろうか?全く信じられない。
そもそも,未来のジョン・コナーが殺せないので,過去に戻って母親を殺害しようという話だったはずなのに,ジョンがあれほどやすやすと敵の侵入を許して攻撃を受けてしまうようでは,物語の根幹が成立しなくなってしまうはずである。ストーリーにこんな大穴を開けて平然としている脚本家は,一体何を考えているのか,意外性だけにこだわって他の全てに目をつぶったようにしか思えないし,そこまでこだわった話があれでは情けなくなってしまうばかりだ。新型が何度か消滅させられているのに,何の説明もなく復活して来るのもどうかと思われた。説明を放棄しているとしか思えない無責任な制作態度である。
役者はシュワルツネッガーの怪演が特筆もので,爆笑を誘うシーンが多かったのだけは救いだったように思う。サラ・コナー役の女優は,良くぞ雰囲気の似た人を探して来たものだと感心させられたが,一方のカイル役の俳優は似ても似つかず,完全なミスキャストであった。T-1000 に朝鮮人俳優が採用されていたのは,執拗さと悪寒を感じさせるにはぴったりだと思ったが,どんなものにも変身できるならわざわざこいつは選ばないだろうとしか思えなかった。そもそも,人間の姿で自動車を運転するのではなく,自動車に変身して自分で走った方が速いのではないかと思うのだが,別な映画のコンセプトと被ってしまうので採用されなかったのだろう。:-p それにしても,どのターミネーターも視覚と聴覚くらいしかセンサを持っていないらしいというのはあまりに間抜けではあるまいか?熱感知や空気圧センサなどを装備すれば,建物の中からターゲットを探し出すのなど遥かに簡単になるだろうと思うのだが。
音楽は Hans Zimmer がクレジットされていたためか,T1とT2で音楽を担当した Brad Fiedel が作曲したキャッチーなテーマ音楽は,エンドタイトルでしか流されなかったのは物足りなかった。Zimmer はそれなりに頑張っていたが,オリジナルテーマを超えるほどの曲は書いてなかったのが残念だった。3D 版は吹き替えだということをうっかり忘れて 3D 版を見てしまい,そういう場合は 2D 字幕版を見直すのだが,今回はその気になれない。エンドタイトル後に次回作を予感させるかのようなオマケ映像があるのだが,この話で続けられてもなぁ,と思わされただけだった。(映像5+脚本1+役者4+音楽4+演出4)×4= 72 点(脚本はマイナスにしたいくらいだが,笑わせてくれた分だけ1点を与えよう。:-p)