「悼むためには故人を知らなければならない」悼む人 ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
悼むためには故人を知らなければならない
高良健吾が演じる坂築静人は不慮の死を遂げた見知らぬ人々を悼みながら旅をする不思議な人物である。見知らぬ人の死を悼むとはどのようなことなのだろうか?見知らぬ人から自分の、或いは身内の死を悼まれたらどう思うだろうか?そのようなことを言葉少ないながらも問いかけてくる。
故人が亡くなった場所へ赴き、どのような人であったかを知り、そしてその人のことを心に刻んでいく。一般的には理解しがたい行動であるが、孤独死や無縁死といった言葉を耳にする昨今、このような奇特な人物を描くことは必要なのかもしれない。
ただ、残念なことに彼が悼んでいる人がどのような人物であったのかが見えづらい。いじめによる死、事故による死、歪んだ愛情故に起こった死…、掘り下げられるエピソードもあるが、それは彼が悼んだ中のほんの一握りにすぎない。良く捉えればそれだけこの世に不慮の死が多いということを暗示しているが、掘り下げない人の死については彼の自己満足のためにいたずらに扱ってしまっているとも捉えかねない。
あえて多義的に捉えられる描き方をしたのかもしれないが、悼むという行為は故人がどのような人物であったのかを知り得てこそ行えるものではないだろうか。彼の悼むという行為が故人や遺族の心の支えとなり、癒しとなり、時には感情を逆撫でながらも静人自身の生き方と向き合うこととして描かれていれば、より生死感を考えさせる深い作品に仕上がっただろう。
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