「野球映画ではなく、野球を描いた映画である」KANO 1931海の向こうの甲子園 ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
野球映画ではなく、野球を描いた映画である
野球映画を見るという気持ちで映画館に行ってはいけない。野球を見るという気持ちで映画館に行くべきである。
台湾が日本の統治下にあった1931年に台湾代表として甲子園に出場した嘉義農林学校(通称:嘉農)野球部を描いた本作。熱血監督の登場により弱小チームが力をつけ、団結していくその物語はスポ根映画のお約束であるが、この作品の野球の描き方が半端ない。
グランドに舞う砂埃、ベースを駆け抜けるスピード感、球がグランドに落ちる音。高校まで野球をやっていた身としてはその雰囲気に完全にノックアウトさせられた。とりわけ、永瀬正敏演じる近藤監督がピッチャーの生徒を指導するときの説明に、そうそう、そうだよ!と頷いてしまったほどである。
特筆すべきは試合のシーンの描き方である。試合状況はラジオ放送の実況によって説明され、プレイ中の台詞は必要最低限に留められている。観客も試合の行方を見守ることしかできず、野球映画ではなく、試合そのものを見ている気分にさせられてしまうのである。
生徒の人数も多く、人物描写が不十分な点もあるが、ひとりひとり個性がある。厳しい練習に耐えながらも素直な気持ちで野球に取り組む彼らの姿勢に好感が持てないはずがない。日本でありながら日本とは違った環境にあった当時の台湾。田舎町の弱小チームの活躍を見守る地元住民たちと共にいつしか嘉農を応援している自分がいた。
コメントする