「大きく実ったパパイヤたち…歴史は残酷なだけじゃない」KANO 1931海の向こうの甲子園 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
大きく実ったパパイヤたち…歴史は残酷なだけじゃない
日本統治下の台湾。日本人、台湾人、台湾原住民から成る混成弱小野球部が、鬼監督指導の下、甲子園出場を果たす。
台湾の嘉義農林学校(現・国立嘉義大学)の実話。
去年の暮れから「百円の恋」「激戦 ハート・オブ・ファイト」「ウォーリアー」と格闘技映画が熱いが、野球映画も良作続く。
「バンクーバーの朝日」「アゲイン 28年目の甲子園」と連続ヒットからのホームラン!
同じ実話でも「バンクーバーの朝日」が霞むほどの熱血感動力作!
事実は小説より奇なり。
弱小部が強豪校として生まれ変わって甲子園に出場した事もさることながら、台湾代表校がかつてあったとは!
この実話について全く知らなかったが、今の甲子園ファンでこのチームを知っている人は果たしてどれほど居るだろうか。
彼らを知っただけでも得した気分になった。
話はオーソドックスな熱血スポ根ムービー。
弱小部の快進撃。
甲子園を目指す。
球児たちの友情、監督との絆。
夢に向かって一つになる彼らの奮闘、そのストレートな描かれ方がこの作品にぴったり。
クライマックスの準決勝は熱いものが込み上げてくる。
3時間の長尺も全く飽きさせない。
鬼監督・近藤兵太郎がカリスマ性たっぷり。
練習中は球児たちに優しい言葉をかける事が無いほど厳しい。
熱血、真剣。
指導は的確で、数々の名言も胸に染みる。
永瀬正敏の堂々たる演技が素晴らしい。
特にこの監督に魅せられたのは、球児たちへの接し方。
混成チームだからといって、差別も偏見も贔屓も一切無い。
一人一人を、一球児として真っ正面から向き合う。
彼らが侮辱されるシーンが2度あったが、監督は言い返す。
「それぞれの特色が活かされた最高のチームだ!」
「この子たちを見ろ!」
監督の球児たちへの愛情が何より伝わってきた。
球児たちも民族が違うからと言って、ぶつかり合う事は無い。
民族の垣根を超えた仲間、友。
陰で監督の悪口も言わない。
厳しい練習に必死で食らい付く。
監督の熱血指導でみるみる実力を付けていくと同時に、何より野球が好きな球児の姿が監督にも影響を与える。
何処までも可愛い奴らだ!
また、彼らは農林学校の生徒でもあり、“大きいパパイヤの作り方”が野球においても意味を成してくる。
プロデューサーは「セデック・バレ」の監督ウェイ・ダーション、監督は同映画出演者だったマー・ジーシアン。
永瀬正敏、坂井真紀、大沢たかおら実力派日本人キャストに加え、野球経験で選ばれた台湾の若者たち。
日本と台湾一丸となって本作を作った混成スタッフ・キャストが劇中のチームとダブった。
期待していた作品だったが、期待通りの見応え!
本作と同時期に起きた史実を描いたのが、「セデック・バレ」。
日本と台湾の血塗れの歴史の一方で、日本と台湾の固い絆の歴史。
歴史は残酷なだけじゃない。