「ドラマ性にとぼしい。ただの負けず嫌い」完全なるチェックメイト うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
ドラマ性にとぼしい。ただの負けず嫌い
実在のチェスプレイヤーを主人公に、描かれた評伝。
当時のチェス熱の空気や、国の威信をかけた戦いの様子なんかをとても繊細に描いてあるが、見せ場に乏しく、主演のトビー・マグワイアは、神経質で発狂寸前の主人公を熱演。たぶん実在のチャンピオン、ボビー・フィッシャーが、この通りの愛されない偏執狂だったのだろう。
チェスという競技について考えるきっかけにはなった。
おそらく囲碁においても、国家の威信をかけてなんていうマッチアップが実現することがあるかもしれない。日本が、ずっと勝てない状況の韓国、中国相手に勝利をおさめ、国民感情が爆発すれば、あるいは諜報戦なんかが背景に暗躍する時代が来るかもしれない。
当時の冷戦下の、アメリカとソヴィエトのチャンピオン同士が戦うというマッチアップが国民感情を盛り上げ、その一挙手一投足が注目されたのだろう。たかがボードゲームに、まるで命がけで挑む緊張感のようなものは表現できていたと思う。
だがしかし、私は思う。チェスという競技の面白み、チャンピオンの人となりや魅力、その家族の献身的なサポートや愛憎。いくらでも映画を面白くできる要素はあったのに、こんなにもつまらない神経戦に終始したストーリー展開で良かったのか。と。
タイトルのpawn sacrificeは、あたかもチェスの一手であるかと思いきや、米ソの両国における、チェスプレイヤーの価値が、その程度の評価しか得ていなかったということらしい。両国にとって、その勝敗がもたらす影響や国民感情はその程度の痛みでしかなかったという比喩だと。
純粋に、チェスの競技に身命をささげ、盤を通じて語り合い、国境やイデオロギーを越えて友情を育んでいったチェスプレイヤーたち。そのチャンピオンが、「ポーンを捨てる」という奇策を講じて相手を追い詰め、勝利する。
そんな痛快なドラマを期待して見たのですが、完全に裏切られました。