「悲劇の天才チェスプレイヤーの悲劇と盤上の哲学から導き出した1つの「解」」完全なるチェックメイト スモーキー石井さんの映画レビュー(感想・評価)
悲劇の天才チェスプレイヤーの悲劇と盤上の哲学から導き出した1つの「解」
本作は冷戦時代に活躍した天才チェス・プレイヤー「ボビー・フィッシャー」の人生を描いた
実話に基づく悲劇であり、伝記である。
従って、アニャ・テイラー=ジョイ主演の連続ドラマのように決して華やかさもなければ、ハッピーエンドも用意されてない。
「夢見る少女」には敬遠される作品ではあるが、私はこの作品で描かれる男同士の戦いと苦悩が醸し出す「質実剛健さ」に魅了された。
さて、本作は天才少年ボビーがチェスに目覚め(というよりチェスをすることで現実逃避をしていたのか?)から華麗なる快進撃、最年少でグランドマスターの称号を獲得、そして終生のライバルであり、ソ連の世界チャンピオン「ボリス・スパスキー」との数々の対戦を主に描いている。
特に印象深いのは3つ。
1つ目はもともと情緒不安定だった少年が成長するにつれ、精神が蝕まれていくシーン。
2つ目はライバル・スパスキーに勝利してもちっともうれしくなさそうなボビーとそれを心配そうに見つめているセコンド・ビル神父の表情。
そして、最後の3つ目はボビーがビルに語る「すべては理論と記憶。選択肢は多いと思われるけど、正しい指し手は一つだけ。他に行き着く場所はない。」というセリフ。
このセリフはチェスというボードゲームに対するボビーの解釈と同時にボビー自身のこれからの人生の行く末に絶望していたものだと解釈できる。
月並みだがどんなにIQが高く、その力が存分に発揮できる競技や居場所を見つけても、
それに伴う名声や富を獲得してさえも、必ずしもその人が本当に求めるもの(幸せというと陳腐な表現になるが)ではないということ。
少なくともボビーに安息の日と本当に求めているものは手に入らなかったのではないかと思われる。それは本作を見ていても明白であり、とても心を締め付けられる。