「●史実の残酷さと切なさと。」イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密 うり坊033さんの映画レビュー(感想・評価)
●史実の残酷さと切なさと。
アラン・チューリング。ドイツ軍が誇る難攻不落の暗号エニグマを解読。そして、現在のコンピューターの基礎を作った人物。
彼は、とてつもない偉業を残しているが一般的には知られていない。大戦終結後の冷戦下でも暗号解読はトップシークレットだったからだ。
何も考えないと、それでもエニグマ解読で大戦の終結が2年は早まったと言われているのに・・と思ってしまう。解読した後のことは物語で明らかにされる。深い。そして不運なチューリングの運命も。
ドキュメンタリーもの、ましてや知られざる偉人の物語は大好きだ。しかし、史実に忠実に描くと、なんというか身も蓋もない。
かといって、脚色しすぎると、それはそれで興ざめで。このへんのバランスが難しい。本作は、もう少しメリハリがあってもよかったかなと。
切なさはピカイチなんだけど。
なお、実際の彼はカタブツではなく話好きだったとも。ただ、一方でアスペルガー症候群の気があったとも言われているが、ブレッチリー・パークで変人で通っていたことはホントらしい。
また、同性愛に対する偏見を題材にした映画も増えているが、本作ではあまり重要なポイントにはなっていない。ただ現実の世界では、近年になって、チューリングに大英帝国勲章が授けられたり、ブラウン首相が謝罪したり、恩赦されたり、各地に銅像や記念碑が建てられたりと、さまざまな名誉回復が行われている。だが、政府の言いなりにしたことへの謝罪ではなく、偏見への謝罪にすり替えられている気がする。
しかも、いずれも彼の死後の名誉回復だ。「時に想像し得ない人物が、想像もつかない偉業を成し遂げるものだ」このセリフが重く切ない。想像もつかない苦悩だっただろう。
以下、蛇足。
チューリングが自殺したときにベッドの横には、かじりかけのりんごがあったという。映画『白雪姫』を見た彼が「魔法の秘薬にリンゴをつけよう。永遠なる眠りがしみこむように」と言ったのを同僚が聞いており、白雪姫を真似たともいわれる。
さらに、アップル社のロゴのりんごは,右半分がかじられている。これは記憶容量の単位「バイト」と「かじる(bite)」と引っ掛けたもの。だが、一説によれば、実はチューリングがかじったとも。そして、このロゴには、誰がチューリングを殺したのか暗号で記されているとも(かじった跡が小文字の「a」)。