「「モノづくり」をテーマとしつつ最後には監督の映画論に至る」繕い裁つ人 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
「モノづくり」をテーマとしつつ最後には監督の映画論に至る
本作ではまず、逆光に彩られた洋裁店の作業室の美しさが目につく。ついで洋裁店兼住居の建物、そこに連なる喫茶店、教師宅の庭等々…こうしたモノの美しさを監督は穏やかだが華やかさを秘めた色彩で映像に定着させていく。
ストーリーは洋服というモノづくりで充足した生活を送る仕立屋の女性と、彼女を取り巻くコミュニティを淡々と描いていき、そこにはほとんどドラマらしきものがない。主人公は仕立屋というより、「モノづくり」そのもの、いや「モノ自体」のように見える。
モノの美しさ、モノに纏わりついた人々の日常と記憶、モノづくりに携わる人々、モノを鑑賞し利用し慈しむ人々、モノを取り巻く理想郷をテーマにした「モノ」の映画。それが本作である。
モノとヒトとは別個独立に存在するものだが、モノが意味として発現するにはヒトが介在しなければならない。するとモノには変化がなくてもヒトが変化するとモノの意味も、つまりモノ自体も変化してしまう。
チーズケーキの味が変わったのかと尋ねる主人公に対し、店主が「創業以来変わらない味だ」と答えるのは、そうしたモノとヒト、モノづくりと社会との関係の本質を描いたものだろう。ここで「モノ」を「映画」に置き換えると、本作は監督の映画論、芸術論になると思われる。
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