「融和?」ターザン:REBORN f(unction)さんの映画レビュー(感想・評価)
融和?
人種差別が社会問題化している中、この映画は「白人と黒人との融和」を謳っているようにも見える。
ベルギー国王によるコンゴ侵略のもとで行われた、圧政と虐殺。19世紀帝国主義のアフリカ。白人による黒人の隷属化。
この史実を題材にした映画だ。
「白人は確かに過去に悪いことをした。それは認めよう。だが、白人の中にも黒人解放を目指す人間もいる。だから融和しよう」と、メッセージを放っているのかもしれない。
しかし、悪役はあくまでベルギーだ。米英は民主主義的であり、黒人の味方であるかように描かれている。最強の帝国主義国家だった英国による当時の侵略には触れられていないし、米国内における差別や迫害の歴史にもも触れられていない。「白人」という漠然とした次元での黒人差別は認めているのだが、英米はあくまで正義の味方なのだ。
(※英語で製作された作品のため、英語圏の観客をターゲットにした映画だ。そのため観客が、自身を正義の味方であるようにして主人公に没入できる作品とするための策であるとは言える。そのようにして作品の人気、満足度=興業収入を維持しようとするものだ)
(※ベルギー現国王は、アフリカを侵略したレオポルド2世の家系である。レオポルド2世の姿を登場させ、あからさまに悪役に据えた場合、ベルギー王室との関係に軋轢をきたしかねないし、ベルギー国民からの映画に対する支持も得られにくい。そのためクリストフ・ワルツ演じる国王の部下個人を黒幕とすることで、白人を悪役としながらもベルギー王室および国民に対して好印象を保とうとしたのかもしれない。なおベルギーによるコンゴ侵略下で行われた残虐行為について、2020年、フィリップ国王が謝罪している。)
さらには、文化的・先進的黒人を、ターザンの上位に置くことで、白人による譲歩を見せている。ターザンは野蛮人で、彼に付き添う米国籍の黒人博士は文化的だ。
だが結局、劇中、黒人解放における主役的なはたらきを見せるのはターザンだ。しかも彼の生まれは英国貴族。金持ちで、容姿端麗、筋骨隆々、言語も堪能。
へり下った態度(黒人の下位に野蛮人ターザン=白人を置く)を見せながらも、結局ステレオタイプな「あこがれの白人」像を提示している。米国籍の黒人博士は付き従うだけ。
(なお、野蛮かつ文明的なターザンの二面性は、原作小説から設定されているものであるという)
典型的白人美女であるターザンの妻を添えて彼との双璧を成すことは、そのような白人主役的な雰囲気を強めはしないだろうか?
元来ターザンの原動力は野獣とのシンパシーに思える。この映画は黒人との融和(のつもり)という要素を盛り込んだために、「黒人部族との交流」という性質をターザンに付加することで、彼に奴隷解放のモチベーションを与えている。
そのためアフリカの部族を描かざるを得ず、ステレオタイプな黒人の、野蛮なイメージが強調されざるを得ない。
(魚キングのアクアマンのほうが、もっとターザンのイメージに近い。)
(ターザン=動物、という定着したイメージは、ディズニー映画による影響を強く受けすぎているだろうか?)
白人を黒人よりもあえて下位に置きながら、問題解決においては白人に活躍させる…これはどこか『グリーンブック』にも似ている。
「このくらいの譲歩はする。多少は黒人にへり下るから、主役でいさせてくれ…」
譲れないプライドを見るようだ。これを融和と呼ぶのだろうか。
ターザンという素材を映画化するにあたり、なんとなく政治的・社会的なメッセージを盛り込もうとしたか、あるいはポリティカルコレクティブな映画製作の姿勢を示すため、このような物語になったのかも知れないが、かえって白人が確立してきた優位を保つ結果になってはいないだろうか。