「マエストロ、西田にブラヴォー」マエストロ! ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)
マエストロ、西田にブラヴォー
本作の見所はやはり「マエストロ」になり切った西田敏行さんの熱演でしょう。その「熱量」「エネルギー」は凄まじいものがあります。
音楽に対する情熱はだれよりも「アツい!」「しつこい!」「あきらめない!」やさぐれて、才能持て余し気味の、熱血指揮者を演じております。
本作の主人公は香坂真一(松坂桃李)彼は若くしてコンサートマスターを任されるほどの実力と才能に恵まれています。
彼にヴァイオリンと音楽の英才教育を施してくれた父はすでに他界しています。
彼の所属する中央交響楽団は資金難から解散してしまいました。
そこへ以前の仲間が集まってコンサートをしよう、と連絡が入ります。久々にかつての楽団員が集まり、練習を始めることになります。
だけどやっぱり金がない。オーケストラなんて運営しようとすれば、人件費や練習場所の確保、コンサート会場の費用など、とにかくお金がかかるわけですね。
それでこの再結成された中央交響楽団の練習場所は、なんと古びた「工場」
とにかく曲がりなりにも練習できる場所は確保できました。
だけど、肝心の指揮者が現れない。いぶかしむ楽団員の前に現れたのは、彼らの目の前で、さっきまでこの工場内で修理をやっていた、現場作業員のじいさん。
腰に巻いた道具入れには、大工道具のさしがねやハンマー、ドライバーなんかが入っている。
このじいさん、なにをおもったか腰の道具入れから「さしがね」を取り出し、いきなり
「ワシが天道鉄三郎や。今からお前らの指揮をする。ほな、はじめるぞ!!」
さしがねを指揮棒代わりに指揮を始めます。面食らう楽団員たち。
だけど、このじいさんが楽団員たちに指摘するところは、たしかにいちいち的を得ている。
「このじいさん、いったい何者なんだ?!」
楽団員は、ますます訳がわからなくなってくる。
練習を重ねるごとに、指揮者の天道じいさんの鋭い指摘と熱血指導に、反発を覚える楽団員たち。彼らにも、プロとしての意地とプライドがあるわけですね。しかし天道じいさんは、音楽にのめり込むと、演奏者に対して一切の妥協をしない。容赦ない叱責が飛ぶ!
やがて楽団員たちの、天道じいさんへの怒りと対立は、頂点に達するのですが…
物語はやがて、この天道じいさんと、若きコンマス、香坂真一との意外な接点を紡ぎ出してゆきます。
僕はクラシック音楽を題材にした映画は大好きなので、本作も”それなりに”楽しめました。欲を言えば、もう少し説明台詞やナレーションを少なくしてもいいかもね。
また、キャスティングにしても、松坂桃李やMiwaさんを起用した必然性は全くないと僕は思うのですが……。
むしろ、脇を固める高齢のヴァイオリニストや、チェロ、コントラバス、それにホルンなどの金管楽器奏者たちの演技がとても印象に残りました。
映画終盤の見所、コンサート本番の音楽は、佐渡裕さん指揮のドイツ・ベルリン交響楽団が演奏しております。劇場のいい音響設備でフルオーケストラの演奏が聴けるのは嬉しいものです。さらにエンドロールに流れるピアノは辻井伸行さん。やっぱりピュアですね。
音楽を聴くのはやはり楽しいものです。
だけど、音楽という芸術を、いざ演奏する側になろうとした時、音楽という芸術はその牙を向くのです。
音楽を極めよう、プロになろう、一流の演奏をしよう、とするとき、そのあまりの壁の厚さ、高い障壁に、絶望感を抱くことさえあります。芸術はそれを志す者にとって、時に冷酷で、残酷でもあります。たった一つの音にどれだけ集中するのか? どれだけ想いを込めるのか?
音楽を深く知りたい、もっと味わい尽くしたい、クラシック音楽の奥深さは計り知れませんね。