「蜘蛛に取り込まれ、足掻く男」複製された男 かっちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
蜘蛛に取り込まれ、足掻く男
難解な作品で、一回見ただけでは何が何だか解らないが、二回見ると何となく解るようになる。
アダムとアンソニーは同一人物で二重人格者、売れない役者もやっていたが、妻ヘレンの妊娠がわかってからは、大学の講師一本に絞って真面目な生活をしているようだ。
ただ本人は、そんな生活が窮屈に感じている。アンソニー(指輪をつけていた)がいた秘密の風俗っぽい部屋で、女性が蜘蛛を踏み潰すシーンは、ラストで出てくる大きな蜘蛛のような妻ヘレンからの解放を意味している。そこで 、独身のアダムという二重人格が生まれたと考えられる。
母親が「彼女と揉めたくないでしょ」という彼女とは、妻ヘレンの事であり、ヘレンがアンソニーを問い詰める時の「あの女」というのは、浮気相手のメアリーの事と思われる。
ヘレンは、アンソニーが自分にそっくりな人物がいると嘘をついていると考え、確かめに大学に行き、アダムがヘレンと初対面のような演技(役者ですからね)をしていると疑って、アンソニーに電話をかけてみたが、アダムが視界から消えてから電話に出たことで、アダムがアンソニーである確信を持ったはずである。アンソニーが嘘をつく理由としては、アンソニーが他の女と歩いているところを見られたとしても、「あれはそっくりさんだ」と嘘をつけるからである。
ブルーベリーの件でも、母親がやたらとブルーベリーを進めるので、子供の時から沢山食べてきたはずで、頑なに食べないというのはおかしな話である。よってあの時の人格は、本当の自分から解き放されたいと考えているもう一つの人格アダムであり、ブルーベリーをよく食べるアンソニーの方が本物ということができる。
本名がアダムなのかアンソニーなのかは謎であるが、妻がアンソニーと言い、マンションの人物もクレアと言っているので、そちらが本名のようにも思われる。アダムと言っているのはメアリーだけで、映画を進めた同僚はアダムとは言っていない。大学のHPにはアダムという名前はあるが、顔写真はないので、同僚の名前をメアリーに言っているだけかもしれない。
一見、二重人格で生まれた方が明るいアンソニーの方で、暗いアダムは元々の人格という先入観があるが、これが逆なので、複雑なストーリーと感じてしまう。
ラストでは、それぞれが別の女性と会うが、同一人物が同時に他の女性と会うことはできないので、どちらかが幻である。
メアリーがアダムの指の指輪痕を見て「別人だ!」と大騒ぎするが、指輪痕くらいで別人だと思うだろうか。せいぜい、「さっきまで指輪をつけてたの?」と思う程度だろう。これは、いつかメアリーに既婚者だとバレてしまうだろうというアダムの畏れが幻になっていたのではと思える。
ラストシーンも面白い。アダムは怪しい鍵を手に入れ、今夜は怪しい部屋に行けるとワクワクする。そこでヘレンに「今夜は出かける」と告げる。
しかし、おかしな事に気がつかないだろうか。アダムはこの後アンソニーと会い、またチェンジして元に戻り、アンソニーは普通に家に帰って来るのだ。本当にアンソニーが別人だと思っているなら、自分がここに戻ってくる未来はないので、わざわざ「今夜は出かける」なんて言う必要がない。
ここでは、アダムはもう本当の人格アンソニーに戻っているのだ。怪しい部屋への強烈なワクワク感が、アダムを素に戻したのだ。
そこでヘレンを見たアンソニーは、大きな蜘蛛を見る。アンソニーはヘレンを自分を束縛する蜘蛛として見ていたのだ。ヘレンが蜘蛛として見えることで、自分がアダムではなくアンソニーだと気づいたのだった。