「期待するものが違ったか」夜に生きる ミス・ゴライトリーさんの映画レビュー(感想・評価)
期待するものが違ったか
『ザ・タウン』、『アルゴ』の成功で監督としてその名を認められ、見事スクリーンにそのデカい顔と図体をカムバックさせた俳優ベン・アフレックの監督・主演最新作!
原作が『ミスティック・リバー』や『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(こちらもベンが監督)のデニス・ルヘインということでも気になっていた作品です。
禁酒法時代のギャング映画という前情報とタイトルやらポスターやらで、クライムアクション満載、闇社会でのし上がっていくアウトローのサクセスストーリーを期待していました。
さて、本編はどうだったかというと...。
冒頭の舞台、ボストンでは20年代のファッションや街並みが再現され、当時のフォードによるカーチェイスが繰り広げられるなど、期待を裏切らない展開を見せます。ベンは堂々としてカッコイイ!シエナミラーもファムファタル的な美女がハマっています。
ところがそんな夜の世界から、舞台はカンカン照りのフロリダはタンパへと早々に移り、ベンはボスからのプレッシャーを受けながら密造酒ビジネスとカジノ建設にあくせく奮闘する日々に...。
ゾーイソルダナという妻も得て、頑張ってタンパを仕切るベンですが、KKKに嫌がらせされたり、信仰に目覚めた少女(エルファニング、かわいい)ひとりにカジノ建設を邪魔されたりと、悩みの種は尽きません。この辺り、中間管理職の悲哀を感じさせます。
一応、そんな中でも敵を殺したりはしているものの、観ているこちらが彼から受ける印象はギャングというよりビジネスマンです。なんだか情けないぞ、ベン!
最後には、それまでの不満が爆発し見事に鬱憤を晴らし、そこは流石に観ながらガッツポーズしたけれど...タメが長いよ〜!という感が否めなかったです。
そもそもは自分をボコボコにしシエナミラーを死に追いやった前ボスへの復讐として、新たなボスの元についたはずのベン。
しかし先にも書いたようにタンパについた途端ゾーイと付き合いだし、前ボスへの言及も大してないままに話が進んでいくので、復讐劇としての映画の推進力は薄れていってしまいます。しかもやってる事は上からの命令によるビジネスでそれ以上の野心も感じられず、観客としては主人公を応援する、ひいては映画を観続けるモチベーションが保ちにくいのです。
これが観ながら感じた不満のひとつでした。こいつ、何がしたいんだろう?という。これは監督としてのベンにも言えることです。
彼はこの作品をクライムサスペンスの映画ではなく、あくまでヒューマンドラマとして撮りたかったのでしょうか。
ラストの展開も、ここで夜の世界にカムバックするのかと思いきや、そうしない...。
不満は演出にも飛び火し、無闇に動くカメラワークや前後のフォーカス移動が気に入りませんでした。そんな事しなくても画面はつくれるでしょう。顔のアップは個人的に好きなのでよかったのですが、気になるひとは気になるかも。あとは時間の処理がまずくて、どの位の期間の出来事なのか私にはいまひとつわかりませんでした。
とにかく観ていてモヤモヤする一本、というのが観終わった直後の印象でした。
ただ、ベンアフレックは好きな俳優なので、バットマンなどよりかはこっちの路線で引き続き頑張って欲しいです。なので星はちょっとおまけ。
また、色々書きましたが決してつまらない作品ではないですし、あの時代にこういう生き方を選んだひとりの男と彼が愛した女性を描いたドラマとして観直したなら、違う評価になり得ると思います。
そしてなにより脇を固める俳優たちの渋さと女優たちの美しさ、ベンアフレックのカッコよさ(これは好みによりますが)は非常にうまく撮られていました。この辺は監督自身が俳優だからこそよく解っているのかもしれませんね。自分より美男を出さないのはご愛嬌。
よく第二のイーストウッドなどと言われるベンですが、監督としては『ザ・タウン』で意識していたマイケル・マンを継ぐような作品を撮っていってほしいと個人的には思っています。そういう私の勝手な期待が、今回の不満の一番の要因だったのでしょう。
最後に一言。ぜんぜん“夜に生き”てないじゃん!!