インヒアレント・ヴァイスのレビュー・感想・評価
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スキヤキ
奥行きのある作品
なんせ情報量の多いことで有名なピンチョン。
マンソン・ファミリーによるポランスキー邸での無差別殺人事件。その裁判が世間を賑わせ、ヒッピーカルチャーが失速しはじめていた1970年代初頭のロサンゼルス。
マリファナ、土地開発業者、警察、サーフィン、ロックンロール、ハリウッド。そんなディテールを、原作を未読な私に、PTAは色と音楽でたっぷり観せてくれた。
どこまで現実でどこから妄想なのか、煙にまかれたようでわからない。
考えてみれば、今の情報社会そのまま。
国家の陰謀や謎は、現実なのか妄想なのか、疑心暗鬼になるだけ。
水と熱湯を混ぜたらぬるま湯になるけれど、ぬるま湯を水と熱湯には戻せない。
この世界の秩序も、一度崩壊したら元には戻せない。
では無秩序が突然現れたのかというと、そうではなくて、原題の「内在する欠陥」が言う通り、秩序が保たれている頃から内在されているのだ。
ぜんぜんわからん!
期待したほどではなかったかな
ピンチョンは難しい
タマゴは壊れやすい
探偵の物語。
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探偵で真っ先に浮かんでくるのが、チャンドラーのフィリップ・マーロウ。
この映画、冒頭の「暗闇から現れる女」や、「洋上に浮かぶ船」、そして何より「死んだはずの男」が出てくるあたりが、完全にマーロウの世界で、ファンとしては、グハっとなる。うわ、タマランと悶えっぱなし。最後のケツの持ち方もマーロウ。この映画が「第3のマーロウ」と言われているのも分かる気がする。
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壊れた街を壊れた男が彷徨うのがノワール。
壊れた街を壊れない男が彷徨うのがハードボイルド。
(by滝本誠氏)
だとすると、マーロウは、壊れそうで決して壊れない探偵。
そんなイメージを私は勝手だが持ち続つけてきた。
何度も映画化されているが、
ハンフリー・ボガート版は、シュっとしすぎていて「壊れそう」な感じがしない。めっちゃカッコいいしハードボイルドに違いないんだけど、私の思うマーロウではない気がする。(ボギーファンの方、こんなこと書いてほんと申し訳ありません。)
アルトマン版は「壊れそう」な危うさがイメージ通り。だけども肝心の主役のオーラが無さすぎて、個人的には残念な気もする。
一番好きなロバート・ミッチャム版は、LOVE & HATEのどちらに転ぶかわからないミッチャムの幅がまさにマーロウなんだが、その他の演出がどうにもこうにも古臭い気がする。
マーロウ映画に対し千々に乱れる思いを抱いてきたわけだが、いやはや今回の『インヒアレント・ヴァイス』、「壊れそうで決して壊れない男」に、ホアキンがぴったりとマッチしており、これぞ、マーロウと思ったりもする。(個人的な妄想で盛りあがった上での感想なので、こんなのマーロウじゃないと思うファンの方もいるかと思う。すみません。冷静に観ればちょっとダラダラしすぎとも思う。)
原作ピンチョンがどこまでマーロウを意識したかは謎(他の要素も入れてある)。PTA監督はアルトマン版の雰囲気を結構意識したのではないかと思う。
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ストーリー自体は、起承転結もあり意外に普通の探偵ものになっていたような気がする。人種間の攻防、土地を巡るエスタブリッシュVS新興の対立、警察司法の陰謀めいた動きなど、チャンドラーというよりもエルロイのLA4部作、アメリカ3部作のパロディっぽい気もするが。
ストーリー自体は普通だがそこに象徴されるもの。
古き良きアメリカの番犬的な刑事(アメリカ50年代の象徴)。
LOVE & PEACEな雰囲気の元彼女(60〜70年代の象徴)。
流され続けて今自分がどこに居るかわからない「死んだはずの男」(戦後アメリカそのもの)。
彼らが壊れた様を、映画は描いている。
彼らを壊したのは誰なのか。
ニクソン&レーガンな保守(80年代)なのか。
いや、そうではなく、そもそもが壊れやすい性質だったのだ。
誰のせいでもなく、自ら壊れていったのだ。
60〜70年代の、LOVE & PEACE、フリーダム、ヒッピー。
それらは、誰かが需要と供給をコントロールして生み出したものに過ぎず、ほんとのフリーダムなんて無かった。最初から壊れていた。
70年代へのノスタルジーがこの映画の主眼ではなく、憧れるべき70年代は最初から壊れていたのだという冷静な見解。
インヒアレント・ヴァイス…固有の瑕疵(タマゴが壊れやすいという性質は誰にも変えられないし保証補填できない)。
この映画は、アメリカの「固有の瑕疵」の物語なんだろうと思う。
壊れゆく刑事も元彼女も、探偵は助けられない。
この映画の探偵は、壊れない「強さ」よりも、周りが壊れゆく様を見届けなければならない「悲しさ」が勝っている。そこがマーロウとの共通点なのかなと思う。
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ラスト、探偵は「死んだはずの男」を、全てを引き換えに助ける。
なぜか。「男は死んでない」と頑なに信じる妻(名前はホープ)がいたからだ。探偵は「希望」を壊したくなかった。
明るいラストなのかもしれない。
でも、探偵が助けたことで、より壊れてしまったジャンキーの家出娘も映画に出てきており、一筋縄ではいかないなあとも思う。
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追記:
雰囲気やストーリーは全く違うが、この映画と『グランド・ブダペスト・ホテル』の主題は同じだと思う。
『グランド〜』は戦前の古き良き時代へのノスタルジーだけではなく、それらが壊れていく「終りのはじまり」を描いていた。
この映画も同じで、70年代の「終りのはじまり」を描いているんだろうなと思う。
この「終りのはじまり」路線は、『ジャッキー・コーガン』(リーマンショックなどの問題は今に始まったことではなく、1810年代から始まっているんだ云々)など、他にもいっぱいあって、アメリカの文化人の人はこういうのが好きなんだなあと思う。
雰囲気素晴らしい
ピンチョンらしく人物相関が込み入っていて途中から脱落したが、音楽、衣装、演出などなど雰囲気は素晴らしかった。小説は未読だけど、ピンチョン小説に頻出する分かる人には分かるネタみたいなものも所々含まれていた気がする。ストーリー的には探偵なり何なりが事件を追っていくうちに自分が巻き込まれていくという競売ナンバー49の叫び(これは読んだ)に近くピンチョンとしては読みやすい部類に入るものだと思う。エンドロールで知った、音楽はまさかのジョニー・グリーンウッドであった。ニール・ヤングの曲もHarvestに加えJourney Through the Pastという激レア音源が使われていてこれだけでもかなりすごい。ピンチョンがカメオ出演しているらしいが、そもそも今のピンチョンの顔を知らないので分かるはずもなかった。全体感としてはアメリカン・ハッスル思い出したので、スティーリー・ダンのダーティー・ワーク聴きながら帰った。
ついていけず。
監督で観るなら最高!作品で観るならもう一歩!涙
さすがPTアンダーソン!と唸らずにはいられないさすがの一本。
演出も、ホアキンの演技も、そして何より音楽がキレッキレ!
時代の空気感とかも非常に心地よかったし、いきなりぶっ込まれる笑いも意地悪で素晴らしかった!
然し乍ら…
監督、貴方が凄いのは十二分に分かってるから…
「探偵モノ」としての文法はキッチリ押さえて欲しかった!涙
関係人物が多すぎるのに、交通整理がとにかく少なく。
「ん?!誰だお前さん?」なんて思うことしばしば…
頼りになる映画通の友人は、「コレは考えたらいけない部類の映画です!」とオトナな意見だったけど…
やっぱり「探偵モノ」に関して譲れないのは、自分のチャイルディッシュさが克服出来ないからだろうか。
凄い監督だからこそ、定石のパターンを真っ向からどう料理するかが楽しみだし…
「側面を突く!」で、それだけでラストまで行かれると淋しくなるんだよね。
ともあれ。
2度観は必須、出来れば映画偏差値の高い同性の友人と観るべき一筋縄ならぬ作品。
70年代ってこんな感じ?
よくわからない
なんと言っても奇妙な登場人物と舞台、軽妙な会話の魅力ですよね。ギッ...
まどろみ
探偵もの。
ポール・トーマス・アンダーソンは好きな映画作家のひとりだ。
「ブギーナイツ」や「マグノリア」には心底うなったし、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の骨太なドラマにも感心した。
一方、「パンチドランク・ラブ」や「ザ・マスター」は巷間言われるほど響かなかった。
そして、本作。
探偵が依頼を受けていろいろ調べて、時には冒険めいたこともして、真相にたどり着く。
もちろん、こういうステレオタイプな展開を期待していたわけではないが、あまりにも外しすぎではないか。
探偵ドック(ホアキン・フェニックス)と警察官ビックフット(ジョシュ・ブローリン)のコンビは映画史に残る名コンビだったとは思うが、彼らがどれだけストーリーに貢献していたというのだろうか。
トマス・ピンチョンという作家についてはまったく知らない。だから、本作が原作に対してどういうスタンスになっているのかまるでわからない。
もし、原作のテイストがうまく映像に移し変えられていれば、高い評価が得られるだろう。
1970年のアメリカを肌で知っていないと、実のところ楽しめないのではないか。そんな気がする。
さすがの表現力
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