「hydrangea」ジャッジ 裁かれる判事 everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
hydrangea
鑑賞1回目は普通に感動。
2回目により深く響いて涙が出ました。
目立つ派手さはありませんが、家族や人間心理の描写が秀逸でした。つまらないという意見もありますが、一般的で普通と呼ぶには、かなりドラマティック過ぎる過去を持つ家族です。
2人のRobertが良い演技をしています。
特にDuvallはアカデミー賞ノミネートに納得です。
鋭い目つきの検察官を演じたBilly Bob Thorntonも、本当によく化ける人です。
地元Carlinvilleで42年間裁判官を務めているJoseph Palmerにひき逃げの疑い。被害者はかつてJosephが2度裁いた因縁の男Mark。
証拠はある。目撃者はいない。
しかし本人は「覚えていない」…。
「記憶にございません」の官僚とは違って(^_^;)、高齢の誠実な裁判官は、本当に覚えていないようです。痴呆?化学療法の副作用???と思って観ていました。確かに末期の大腸癌で体力は弱っていました。しかし頭はしっかりしており(^_^;)、事件の日は、記憶が吹っ飛ぶほどの精神的ショックが続いた1日だったのです。50年連れ添った愛妻の突然死→葬式、長年疎遠だった次男Hankの帰省に喜び戸惑い、そしてMarkは出所し…。今度こそは更生してくれていたらと願っていたのに、20年服役してもMarkは過去の殺人を少しも悔やんではいなかったのです。
轢いた覚えはない、でも故意に殺したと「思う」、あの状況で自分ならやりかねないと。
当初は事故で片付くと自らも豪語していたのに、最後はそう告白するJoseph。途中辛い記憶が蘇っ(て倒れ)たことで自問し、そのように考え正直に答えたのでしょう。
最終尋問で、弁護を担当するHankは父Josephからようやく本心を吐き出させます。
当時10代のMarkを初めて裁いた時恩情を見せたのは、
”I looked at him, I saw you.”
次男坊Hankを抱きしめて助けてやりたいような気持ちになったから。
一方で、交通事故を起こし、同乗していた長男Glenの野球人生を壊してしまったHankに検察の要求より厳しい判決を下し、その後も辛辣に当たったのは、
“I looked at you, I saw him.”
情けをかけたMarkがその後すぐに殺人を犯してしまい、甘やかしてはいけなかった、厳しくしなければいけなかったとの自責の念から。Glenの夢とチャンスを奪い人生を狂わせたことは、只事ではないから。次男坊には、二度と道を外して欲しくないから…。
父子の距離感を表す場面が多く出て来ます。
Glenと三男Daleが乗った車を挟んで、JosephとHankが逆方向へ歩く最初の頃のシーン。
そして、回転する空席の裁判官の椅子が、Hankを向いて止まる最後の方のシーン。
帰省してもしばらく、HankはJosephを”Judge”と呼んでいますが、作中初めて”dad”と思わず言葉が出るのは嵐の中大喧嘩する時。そして最後は、”Dad, dad...”と呼びかけます。
愛するが故に憎しみもあり、互いに上手く向き合うことの出来なかった父と息子の距離がグッと縮まりました。更にHankは、逃げて避けてきた故郷に居場所を見つけることが出来ました。
男同士のプライドからか、けなし合うばかりで互いの業績を認めない親子の姿、辛口で威厳に満ちた父親の、老いて衰弱した姿に戸惑う息子、幼い子供のあしらい方を熟知している年の功、そういった描写も上手かったです。
家出以来、次男に会えなかった母親は気の毒ですね…。
我が家に愛はあるんだよ、と繰り返し諭すようなDaleの眼差しがとても優しかったです。
ちなみにHankの家の紫陽花は枯れ気味。
実家の紫陽花は、母親の手入れが良かったからか綺麗に咲いていました。
紫陽花の花言葉は、良いものから悪いものまでありますが、英語版はどちらかというと悪い意味がやや多めのようで、辛抱強さ、感謝の一方で、自惚れ(るほどの美貌)、移り気、(恋愛に)冷淡、高慢など。何だか最初のHankそのものだなぁと思いました。