「隣にある風景」ジャッジ 裁かれる判事 ぬこもふ/赤の秘密結社wさんの映画レビュー(感想・評価)
隣にある風景
この映画は、評価が低い。
裁判物のようで裁判物ではないし、途中から始まり途中で終わる人生の一コマを丁寧にフラットに描いている。山もなければ谷もなく、期待した大逆転も大負けもない。悪人もいなければ善人もいないごく普通の人々の中の一家族の物語。
だけど、あまりに身近な感じで気が付いたら泣いていた。
亡き父を思い出し、物語を含めて泣いていた。
一見すると法をすべてだと思っている敏腕検察官VS負け知らずの有能な弁護士の息子VS正義を重んじすぎる父親。
だが、これはぎくしゃくしたどこにでもある親子兄弟の物語で、最後は殺人罪は無罪で故殺罪は有罪の4年の服役刑。
しかし検察官も裁判の勝ち負けではないものを感じ言葉なく、弁護にあたった息子は父に阻害されてきたと思い込んでいたのは間違いでものすごく愛されていた事を知り立てない程泣きじゃくった。
ラストで父親は恩赦で7か月で出所するが、その恩赦嘆願書を書いて提出したのがあの検察官。
みんながみんな自分の信じる道を行こうとして、そこに愛や優しさが無かった事に気づき成長する。
ウチの娘が小6の時、先生に「6年生ともなれば、両親の離婚率は6割に上る」と言われた事がある。
主人公の娘が車の中で発した言葉は自分の両親の離婚話と同じだと友達の名前を上げる。身につまされる。
何でもない風景がそれぞれの頑固さ故の誤解が解けて行き、最後は言葉さえいらない愛に包まれる。
最後の三男の表情が忘れられない。
愛とは特別なものじゃなく、言葉でもなく、しかし言葉にしなければ伝わりにくく、でもそこここに、すぐ側にあるものなんだと実感させられる。
これほどの傑作が忙しい時代の流れの中に埋もれない事を祈る。
私はこの途中で終わる物語の続きを想像して楽しみたい。