「「名曲誕生の真実」ではない」ジャージー・ボーイズ CRAFT BOXさんの映画レビュー(感想・評価)
「名曲誕生の真実」ではない
アメリカで伝説的なグループ「フォーシーズンズ」の成功物語をミュージカルにした舞台を、クリント・イーストウッド監督が映画化。ミュージカルの映画化とはいえ、踊りなし、音楽に乗せた台詞もなし。フォーシーズンズの音楽に乗せて、彼らの歴史を追っていく作風に仕上げた。
舞台は未見ながら、期待していたせいか、大いに物足りなかった。
まず、本作は舞台でもヴァリを演じたジョン・ロイド・ヤングを配役しているのだが、彼の歌がイマイチだ。いくつかのシーン、高音を出すところで微妙な「引っかかり」があった。実際のヴァリの高音は、もっと透き通った声だったので、あの引っかかりは気になる。本作は、歌で感動させようと言う意識を排除して製作されているのかもしれないが、ミュージカルの特徴である、圧倒的な歌唱力で強引にでも感動させてしまうような場面が皆無だ。それも、音楽劇を期待していた分、残念だった。
逆に、ミュージカルの踊り、歌、役者の歌唱力などミュージカルの感動要素を排除したなら、どこに魅力を感じて映画化したのか疑問だ。フォーシーズンズの歴史を振り返るというだけなら、舞台を映像化しなくても、フォーシーズンズ物語を新たに作れば良い。実際のフォーシーズンズは、もっとドロドロとした不仲騒動が、リアルタイムではない僕の世代でも知っている有名な話だし、そんな部分を含めてリアルに描いた方がイーストウッドらしい作品に出来たのではないだろうか。
本作ではまるで「4幕もの」ともいうように、4人がパートパートで狂言回しになっている点はいい構成だった。とはいえ、ストーリー展開や構成上で良かったのはそれくらいで、全体的には舞台の映像化の狙いがよくわからない。
個人的に一番感動したのは「君の瞳に恋してる」の製作秘話とヴァリの娘の死を絡めたシーンだが、あればあくまでもこの映画の創作で、実際には、曲の製作時期(60年代)と娘の死(80年代)の時期を考えれば、まったくのフィクション。
「時代を超えた名曲に秘められた感動の真実」というのが、本作のキャッチコビーの一つだが、少なくとも「君の瞳に恋してる」については完全な作り話だし、明らかにミスリードしている。クリント・イーストウッドの責任ではないが、まるで伝記物であるように作っておきながら、こういう大きな部分がまったく歴史的事実と反した創作になるのは違和感がある。
もう一つ気になるのは、クリント・イーストウッドは、劇中で数年という時間を経過した際に、それを表現するのが雑だと感じる。それは、『ミリオンダラー・ベイビー』でも感じたことだ。もともと(これは舞台版の構成の問題かもしれないが)時系列が実際に起きたものとバラバラに繋ぎ合わせていることもあって、エピソードから次のエピソードに写った際、何年くらい経過しているのか分かりづらい。
ラストシーンでは、「これぞミュージカル!」というシーンを付け加えているは、口うるさい舞台ファンへのサービスだろうか。あれをそのまま全体にやってくれた方が、きっと楽しめただろう。