「音楽と創作の楽しさ」はじまりのうた 古泉智浩さんの映画レビュー(感想・評価)
音楽と創作の楽しさ
キーラ・ナイトレイが酒場で嫌々歌い出して、主人公が脳内でアレンジを加えていく場面が面白く感動的だった。また無名の寄せ集めのメンバーで街中でレコーディングするところもすごく楽しそうだった。チームと音楽の楽しさ、創作の楽しさが描かれていてすごくよかった。
主人公もキーラも何の落ち度もなく「自分は悪くない」設定だったところがうすら寒かった。音楽プロデューサーなんてだらしなく性愛にまみれた生活をしていて当然みたいな立ち位置なのに愛妻家で、キーラ・ナイトレイともほぼセックスも同然かそれ以上のデートをしていてもそこどまりのプラトニックな関係だった。
ひとつのiPodからヘッドホンを二つ接続するの、あれはとんでもなくエロい。キーラ・ナイトレイの頑なな表情が溶けていく感じがした。
キーラ・ナイトレイの友達のデブの家が楽しそうだった。あそこで暮らしたい。
キーラ・ナイトレイが元カレにムカついてわざわざ作曲して留守電に演奏を吹き込むところはよかった。元カレが感想を自分から求めているのに、批判的な感想には反論しているところは面白かった。それを間抜けな男と描いているのかというと、「君ともっとこういう話がしたい」と言い出し、その自己正当化が監督の本音なのかなと思った。誠実な人柄が反映されていると思うのだがもう一皮むけてほしい。むけたらむけたで面白くなくなる可能性もあるので、このままでいいのかもしれない。
音楽がポップで楽しい反面、歌詞の内容が、自殺であったり恨みがましさであったりで、暗かった。そんな人間の負の側面を題材としつつも自分を肯定せずにはいられない、そんなところがいいのかもしれない。