劇場公開日 2015年2月7日

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はじまりのうた : 映画評論・批評

2015年2月3日更新

2015年2月7日よりシネクイント、新宿ピカデリーほかにてロードショー

夢みるよりも今を見つめ、一歩を踏み出すことで生まれる音楽と奇跡

最悪の状況を一気に人生最大のチャンスへと変えるマジック。映画がわたしたちに見せてくれるのはそんなあり得ない力なのだが、しかしそれを起こすのは奇跡でもマジックでもない。知恵と経験と勇気こそがその元にあるのだと、この映画が教えてくれる。現在は家族を失い一文無しの元グラミー賞受賞プロデューサーと、チャンスを求めてイギリスからNYに渡ったものの恋人と別れ、もはや故郷に戻るしかないと思い詰めた失意の女性ミュージシャンとの物語。

そこで描かれるのは「夢」ではなく「愛」である。何かを目指すのではなく、ただひたすら今の自分を見つめ、周りを見つめ、友人たちと生きる。そこからしか生まれない何か。幽かな希望の光と言ってもいいそれを受け取る、しなやかで大らかで繊細な心を保ち続けること。明日を夢見るのではなく、今この時の光を感じること。ベロベロの酔っぱらいでも目と耳は確か。それが受け取った何かをすっとつかみ、一歩を踏み出す勇気があれば、あとはどうにかなる。

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スタジオを借りる金がなければ外で録音すればいい。街の音、ざわめき、風のそよぎ、人々の声。すべてが音楽の一部になる。知人、友人、家族といった人生の仲間たちや、PCやツイッターなどの最新テクノロジー。それまではバラバラに存在するだけだった小さな音や小さな力が集まり、1枚のアルバムが出来上がる。未だ聴こえぬ音楽に耳を澄ます勇気と、そこに思わず踏み出してしまった一歩が、小さな力を集めたのだ。主人公、キーラ・ナイトレイ本人が歌う、どこか素人っぽい少し強ばった歌声も、一方、恋人役で本職の歌手であるアダム・レビーン(マルーン5)の余裕の歌声も、それぞれが等しくひとつの小さな力となって、この映画を支えている。そんな映画。この映画を観たら、誰もが街角で録音をしたくなるはずだ。そこから何かが生まれることを信じて。

樋口泰人

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