MIRACLE デビクロくんの恋と魔法 : インタビュー
榮倉奈々&ハン・ヒョジュ、わずかな時間で互いの中に見出した“居心地の良い空気”
“意気投合”というのとは少し違う気がする。現場で対話を積み重ねたわけでもないし、芝居を通して向き合うことで己をさらけ出したわけでもない。それでも、榮倉奈々とハン・ヒョジュは、犬童一心監督の下で映画「MIRACLE デビクロくんの恋と魔法」に参加する中で、わずかな時間のうちに何とも言えない“居心地の良い空気”を互いの中に見出した。(取材・文・写真/黒豆直樹)
優しすぎるがゆえにちょっと頼りない主人公・光(相葉雅紀)を軸に、4人の男女の切ない恋のすれ違いを描く今作。榮倉は光の幼なじみ・杏奈、ドラマ「トンイ」などで日本でも人気の高いハンは光と偶然出会う“運命の人”ソヨンを演じた。
榮倉とハン、2人をこの作品へと強く惹きつけたのは、犬童一心監督の存在。「『ジョゼと虎と魚たち』のイメージが強かった」という榮倉は、「いただいた台本はファンタジー色の強いエンタテインメントの印象で、これを犬童さんがどう撮るのか興味がわいた」と語る。ちなみに榮倉にとっては、「のぼうの城」に続き2作目の犬童作品となる。
「前回は(樋口真嗣監督との)共同監督という形で現場も独特だったし、時代劇ということもあり、動きもかなり固まっていたので、もう一度、がっちりとお芝居を見てほしいという気持ちがありました。杏奈という役は、ぶっきらぼうで男勝りな部分もあるけど繊細な部分も見えてきて、その部分を犬童さんがどう撮ってくれるのか楽しみでした」。
「ジョゼと虎と魚たち」は韓国でも犬童監督の代表作として人気が高く、ハンにとっても「大好きな映画」だった。「だから私もこの脚本を読んで、いままでの犬童監督とは違うイメージを持ちました」と語る。
そんな2人の犬童監督の現場に対する期待が裏切られることはなかった。榮倉とハンは、現場での芝居について「監督に“自由”をもらった」と口をそろえる。榮倉は改めて犬童監督の現場をこう説明する。
「アニメで登場するデビクロくん(※主人公の光が作り出したキャラクター)を見たとき、私たちよりも若い世代向けのエンタテインメントかと思ったんですが、4人の恋愛の描き方が繊細だから、大人が見て楽しめる上質な作品になったと感じました。その繊細さ――それはリアリティともつながっていると思いますが、監督が俳優を信頼し自由にやらせてくれるほど、リアルなお芝居になっていく。そうした自信を与えてくれる演出の精神的な部分はすごく大きいと思います」。
ハンは先述の通り当初、台本からこれまでの犬童作品との違いを強く感じていたが、完成した作品を見て「やっぱり犬童監督の“色”が入っているのを感じた」とも。「4人の恋愛はどこか漫画のようでもあるし、実際にアニメーションもミックスされていますが、そこにしっかりと現実感があるのは犬童監督の演出があってのことだと思います。『ジョゼ』を見て、アーティスティックな気難しい監督なのかと思っていましたが、お会いするとすごく“いい人”でした(笑)。物事についてハッキリと口に出してくれる方で、楽しい現場でした」。
杏奈はオブジェ作家の卵で、世界的照明デザイナーであるソヨンのチームの一員として、クリスマス・イルミネーションのプロジェクトに参加しているが、劇中の2人の関係性は本作における榮倉とハン自身の関係とも重なる。
ハンにとっては韓国を離れて日本での現場、日本語での演技と様々な初挑戦が続いた。「最初に日本語で演技した日は、家に帰ってから急に『私はいま何をしているの?』と、なぜか急に恥ずかしいような不思議な気持ちになりました(笑)」と振り返るが、一方でこれまであまり経験がなかったという同世代の女優との共演は刺激的だった。
「すごく新鮮な感覚でしたし、(榮倉に)女優として似ている部分も感じていました。新鮮であるということは初めてで慣れない経験ということで、普通はそこにぎこちなさを伴うものですが、最初から一緒にいて全く不自然な感じがなかったです」。
ハンの言葉に榮倉も「うん、そうそう」と同調し、言葉を続ける。
「あのチームにいる自分たちがすごく自然というか、スマートにその場にいられたと思います。実は決して長い時間を現場で過ごしてはいないんだけど、一緒にいることへの違和感のなさは、私も感じていました。どうしても交われない人とは、同じ言葉を話していても交われないものだけど(笑)、やっぱり私たちの中で何かが共通していたんだと思うし、言葉の壁を超えて『もっと知りたい』とすごく興味のわく存在でした」。
榮倉、26歳。ハンは1歳年上の27歳。NHKの連続テレビ小説「瞳」のヒロインをはじめ、20代前半から次々とドラマや映画で主演を務めてきた榮倉と、「春のワルツ」「華麗なる遺産」「トンイ」と日本でも人気のドラマで主演を務め、韓国のトップ女優となったハン。国は違えども共に濃密な20代を過ごしてきた。改めて、2人の仕事観を聞いた。まず、口を開いたのは榮倉。
「これは仕事に関してだけじゃないですが、全ては人間関係、出会いだなと感じています。いままでこの仕事を続けてこられたことも、まず何より出会いに感謝しているし、人と関わるからこそ自分に責任を負わせて頑張れると思っています。ただ『私にはこの仕事しかない』と思ったことは一度もないんです。だからって何が出来るというわけではないんですが(笑)。もちろん、全ての仕事を全力でやらせていただいていますが、一方でそれくらいのスタンス――何にも縛られることなく頑張りたいなと思っています」。
執着することなく軽やかに――。だからこそ榮倉はこれまでの軌跡を振り返り、いま自分がどのあたりにいるのかを確認することがないし、この先のビジョンをハッキリと描こうともしないという。ハンは、そんな榮倉のスタンスに強く同意する。
「この仕事、どこが終点かもわからないし、いま、この辺りまで来たという“立ち位置”を確認することも難しいんですよね。会社であれば上司と部下がいて、キャリアを積んで役職が上がったりするものかもしれませんが、私の考えでは俳優の仕事は上がったり下がったりというよりは道が広がっていくという感覚に近いと思います。その道をより広げていくには深く考える必要がある。よりよい自分を見せるためにより多くの努力をしていかなくてはと思っています」。
4人の男女の恋愛関係に意識が行きがちになるが、国境を超えて歩みを共にする女性2人の姿にも注目してほしい。