思い出のマーニー : 映画評論・批評
2014年7月15日更新
2014年7月19日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー
世界と折り合えない少女の内面をリアルに描いて共感を呼ぶ、かつてないジブリ!
金髪の女の子が出てくる、ジブリの新しい作品という情報だけで観ることにした私にとって、本編は本当に驚きの連続だった。
苦しみを抱えた主人公、杏奈の目に映る世界の残酷さがリアルなのだ。杏奈を苦しめる、悪ではないけれど、俗っぽくて居心地の悪い優しさの描かれ方に、ゾクゾクする。こんなジブリは初めて! 優しいのに、正しいのに、わかっているのに拒否してしまう世界と対峙する12歳。自分にも覚えがあるだけに、あの頃の記憶がよみがえり、苦しい。だからこそ、マーニーとの出会いの、楽しさと喜びが美しく輝いて、そしてまた不安になる。
マーニーのふわふわな髪の毛、楽しそうな声、杏奈の長い手足のひとつひとつの動きが繊細に感情に語りかけてくる。これは友情なのか、夢なのか、と少しずつひっかかるエピソードが、ラストに向けて紐解かれていくのには、胸が痛みながらも救われる思いだった。
舞台となった北海道の風や湿度、水の冷たさまでもが体験したように心に残る。どこかを旅するたびに、「ジブリっぽい!」と似た風景を見つけて喜んでしまうように、あの入り江の湿地は私の心の風景のひとつになった。原作の舞台イギリスとほぼ同じ緯度の北海道だから、こんなにも気持ちよく物語りに入り込めたのかもしれない。
12歳の頃といったら、私にとって暗黒期だった。大人も信用できず、同世代ともうまくいかない。その時代をなんとかやり過ごせたのは、小説だったりマンガの世界と出会えたからだ。
大人になっても、少し慣れるくらいで、苦しみはやってくる。そんなもがきのなかで、世界と折り合いをつけるまでのお守りが、「思い出のマーニー」のような作品なんだと思う。
(衿沢世衣子)