劇場公開日 2014年7月19日

思い出のマーニー : インタビュー

2014年7月15日更新
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高月彩良×有村架純、少女がヒロインになる夏――手にした誇りと宝物

宮崎駿監督が「風立ちぬ」をもって長編アニメからの引退を表明し、高畑勲監督が8年越しの超大作「かぐや姫の物語」を完成させたスタジオジブリ。大きな節目を迎え、新たな出発点として注目を浴びる最新作「思い出のマーニー」(米林宏昌監督)がついに完成した。宮崎&高畑両監督が製作に一切かかわらない初のジブリ作品で、外部から美術監督を招いたり、北海道が舞台になっていたりと“初ものづくし”の本作には、Wヒロインとして注目の若手女優・高月彩良と有村架純が大抜てきされた。ともに声優初挑戦。ふたりの初々しい声の演技が、作品に新風を吹き込んでいる。(取材・文/内田涼、写真/根田拓也)

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原作はイギリスの作家ジョーン・G・ロビンソン氏による同名児童文学。今回の映画化に際し、舞台を北海道に置き換えた。療養のため、養母の親戚が暮らす海辺の村にやって来た少女・杏奈(高月)と、入江に佇む“湿っ地屋敷”に暮らす金髪の少女・マーニー(有村)がひと夏を過ごし、ある秘密を分かち合う姿が繊細なタッチで描かれる。

ふたりとも昨年末に行われた300人規模のオーディションに参加し、大役を射止めた。「次のジブリ作品のオーディションがある」とだけ聞かされ、面接に向かった当時の様子をこう振り返る。

「このチャンスを無駄にしたらもったいない。絶対に受かりたいという気持ちでした。マネージャーさんにも『絶対受かります!』と断言して……。ただ、今年に入っても連絡がなかったので、『落ちたな』とへこんでいました。するとジブリさんから『もう一度来てください』と連絡をいただいて、そこで米林監督から『よろしくお願いします』と台本を手渡されて。一瞬、どういう意味かわかりませんでしたが、合格だと聞かされ、夢か現実かわからないくらいうれしかったです」(高月)

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「その場で杏奈とマーニー、両方のキャラクター設定と、セリフの抜粋を手渡され、そこから自分がイメージするままに10分ほど役柄のお芝居をさせて頂きました。声優の経験はありませんが、自分なりにふだんより少し大きな感情表現をした覚えがあります。考えすぎて緊張するのもイヤなので、とにかく楽しんで、思いきりやろうと。合格したかどうか手応えというのは、私自身は何とも言えなかったですけど、思いきりやった分『これで年が越せるな』って思いました(笑)」(有村)

ちなみに有村はデビュー間もない2011年に、「かぐや姫の物語」のオーディションを受けていたといい「当時は経験も少なくて、結果的に落ちてしまった。今回はリベンジという気持ちも少しあったかもしれません」と明かす。

晴れてジブリヒロインに選ばれたふたりは、丸2日間かけて一緒にアフレコに臨んだ。初めて対面した瞬間、「杏奈に似ているなと思った」(有村)、「私も有村さんを見て、マーニーだと思った」(高月)といい、すっかり意気投合したという。

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「始める前に、米林監督から、映画には描かれない部分も含めて、杏奈が生きた人生の年表をいただいました。こんなに丁寧にキャラクターについて説明されるのは初めてで、おかげでとても演じやすくなりましたね。杏奈は素直だけど不器用な女の子。自分の気持ちをうまく表現できず、心の中で怒ったり、泣いたりしているんです。そんな杏奈が、マーニーと出会って、どんどん成長し変わっていく姿を演じたかった」(高月)

「監督と深くお話しをしたのはリハーサルのタイミングです。まず言われたのは『優しい声でいてほしい』ということ。マーニーはどんなに苦しく、悲しいときでも明るく振る舞う女の子だからとご指示をいただきました。存在そのものが不思議だし、とにかく天真爛漫なんです。気持ちがコロコロ変わって、つかみどころがないんですが、自分なりに彼女のバックボーンを考え、杏奈を包み込む存在になれればと」(有村)

人気俳優を起用した劇場用アニメでは、キャスト陣がひとりひとりバラバラにアフレコを行うことが珍しくないだけに、ふたりが同じ場に立ち、同じ呼吸で演技し合う環境は、そのまま杏奈とマーニー、それを演じる高月と有村の絆を自然と深めていった。

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「この作品は杏奈とマーニーの会話や掛け合いがとても大事。私も目の前に杏奈がいてくれたから、マーニーという女の子になれたし、すっごく杏奈のことを信頼していました。今、こうして話していても高月さんのことを自然と“杏奈”って呼んでいますけど(笑)。声優は初めての経験で、正直何が正解なのかわからない面も。だから、とにかく自然体で演じたつもりですし、これをきっかけにより幅広い表現をしていけるようになれたらいいですね」(有村)

「有村さんと一緒でなければ、また全然違った作品になったはずだと思います。それくらい、一緒にアフレコができて良かったです。ふだんは自分の体を使って、お芝居し、役柄の感情を表現していますが、今回は出来上がった映像やキャラクターがあり、そこに自分を合わせるというとても難しい作業でした。その分、自分にとっては新しい表現方法を学ぶいい機会になりましたし、今後の演技に生かすことができればといいと思っています」(高月)

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完成したばかりの作品を見た直後のインタビュー取材とあって、ふたりは「まだ客観視できない」と口をそろえる。高月は2回目の鑑賞で「少し客観的になれた分、作品の魅力を味わうことができた」といい、「とても静かな映画なんです。見ているうちに五感が鋭くなって、風や音、匂いを敏感に感じ取れて、スーッと物語の世界に入り込めた」と余韻にひたっている様子。一方、有村は「どうしても反省点ばかり見つけてしまう」と自身の演技に厳しい姿勢だが、「全体を通して、とっても素敵な作品だなって。見終わる頃には泣いてしまって、感動で席を立てなかったほど」と心振るわせた。

最後にふたりにとって、「思い出のマーニー」がどんな存在か尋ねると「一生の誇りだと思っています」(高月)、「私の宝物になる作品です」(有村)。スタジオジブリの作品で声優デビューを飾るという不安や苦労、プレッシャーは想像に難くないが、いくつもの壁を乗り越え、ジブリヒロインになったこの夏の経験は、今後の女優人生の大きな糧となり、また、大切な思い出として心に刻まれたはずだ。

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