劇場公開日 2014年4月19日

  • 予告編を見る

ある過去の行方 : 映画評論・批評

2014年4月8日更新

2014年4月19日よりBunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほかにてロードショー

過去にとらわれた人間たちの複雑な感情を鮮やかに引き出す

画像1

アメリカで活躍するイラン生まれの批評家ハミッド・ダバシは、「イラン、背反する民の歴史」のなかで、多文化的、多民族的なイランを、“国家という人工的な構造に押し込まれた、せめぎ合う事実の融合体”というような言葉で表現していた。イラン人監督アスガー・ファルハディの「彼女が消えた浜辺」や「別離」では、縮図としての家族を通して、イランにおける個人と個人のせめぎ合う事実が見事に炙り出されていた。そんな彼の洞察と話術は、パリを舞台にした新作でも変わらない。というよりもより洗練され、人間の複雑な感情を鮮やかに引き出している。

離婚の手続きをするために4年ぶりにパリに戻ったイラン人のアーマドは、成り行きで妻の将来をめぐる問題に巻き込まれる。アーマドの前の夫との間にできた二人の娘を育てるマリー=アンヌは、恋人のサミールと彼の息子と同棲し、再々婚に踏み出そうとしている。ところが長女がアーマドに、サミールには自殺未遂で植物状態になった妻がいて、母親にも責任があると告白したことから、事実のせめぎ合いが巻き起こる。

彼女はなぜ自殺未遂を起こしたのか。私たちは、その原因をめぐるサスペンスに満ちたドラマに引き込まれる。決定的ともいえるような事実が明らかになっても、さらに謎が膨らみ、意外な展開をみせる。しかし、最も重要なのはその真相ではなく、過去や未来に対するファルハディの視点だ。

再々婚に前向きなマリー=アンヌは未来に目を向けているように見えるが、アーマドに似ているからサミールに惹かれているのかもしれない。一方、アーマドが終盤で4年前にパリを去ったことに責任を感じるように、現在の状況は彼の過去と無関係とは言い切れない。そんなふうに過去・現在・未来が複雑に絡み合っているからこそ、人生の選択を迫られる彼らの葛藤が忘れがたい印象を残すのだ。

大場正明

シネマ映画.comで今すぐ見る
Amazonで今すぐ購入

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「ある過去の行方」の作品トップへ