「孤独と静寂の終わり」家族の肖像(1974) sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
孤独と静寂の終わり
扉には厳重な鍵がかけられ、隠し部屋のような私室にこもって孤独と静寂を愛しながら生活を送る教授。しかし、孤独を望みながらも絵画を愛する彼の部屋のいたるところにはあらゆる家族の肖像画が掛けられている。
そんな彼の孤独で静寂な生活を打ち破ったのはビアンカという謎の貴婦人。空いている部屋を賃貸してほしいと頼む彼女に対して、教授は部屋を貸すつもりはないときっぱり断る。
その部屋を気に入らないかもしれないから見たいとせがむ夫人。断られたのだから見ても無駄だと思うのだが。そしてプロフェッサーも貸すつもりもないのに部屋を案内する。
更に夫人に続いて娘のリエッタと婚約者のステファノ、夫人の愛人であるコンラッドまで現れ、成り行きで結局彼らに部屋を貸すことになってしまう。
改修しても良いと言ったのは浴室だけなのに、部屋全体を改修してしまったために、教授の大切な美術品を置いた部屋はめちゃくちゃになってしまう。
苦情を言いに部屋に向かった彼を、なんと部屋にいたコンラッドは開き直って逆上する。
しかも、コンラッドが聞いていたのは教授が夫人と交わした契約とは全く違い、部屋は買い取りで好きに改修して良いというものだった。
夫人に苦情の電話をするコンラッドだが、ヒステリーを起こしたかのような夫人は教授との会話にもまともに応じられない。
さすがに気まずくなったコンラッドは教授に詫びを入れる。粗野で乱暴者だと思われていたコンラッドだが、実は絵画に造詣が深く彼との会話に教授は知的なものを感じ心引かれる。
基本的には夫人を筆頭に常識的な話が通じない彼らに本当なら教授はもっと怒っていいはずだし、色々と問題視しても良いはずだ。
しかし、彼は部屋を元通りにしてくれるならまた住んでも良いとかなり寛大な措置を取る。
ある夜、謎の二人の男が押し入りコンラッドは殴られ怪我を負ってしまう。警察には知らせないでほしいという彼の考えを尊重した教授は、彼を隠し部屋のような自室に運び看病する。
静かな生活を邪魔されて大いに迷惑している教授だが、不思議と彼らを追い出そうとはしないし、逆に親切にする。
相変わらず大きな音で曲を流すし、ある夜にはコンラッド、リエッタ、ステファノの三人は裸になって快楽にふけっている。
リエッタが教授となら結婚してもいいと教授に口づけするシーンは印象的だが、この娘も色々とずれている。
家族のように仲のいい彼らだが、実はお互いのことを良く知らないのかもしれない。ベルリンで左翼に傾倒し過激な運動をしていたというコンラッドはある日警察に拘束されてしまう。
そんな危険な男に娘を預けていたのかと夫人をなじる教授。彼は言うほど悪い人じゃないと庇うリエッタ。
色々と和解の意味をこめて教授は四人を食事に招待するが、政治的な意見の対立でステファノとコンラッドは掴み合いの喧嘩を始めてしまい、そのままコンラッドは部屋を出ていってしまう。
その時に初めて教授は心のうちを彼らに明かす。彼らのことを家族だと思うようにしたと。なるほど、家族とは安らぎだけではなく、互いに迷惑もかけあうものだ。
結婚に失敗した過去を持つ教授はずっと孤独を望みながらも、どこかでまた家族とつながりたいと思っていた。
彼が読んだある本の内容を語るが、それは彼と同じように部屋を貸している男の話。上の階で足音がするが、それは彼に死をもたらす音だった。しかし、彼が部屋を貸した四人は彼に死ではなく、もう一度明るい生活をもたらしてくれたと。
だが、幸福な時間は唐突に終わる。教授にもう二度と会うことはないだろうと手紙を残したコンラッドは部屋で爆死する。
ショックのあまり床に伏す教授の元に現れた夫人とリエッタは喪に服す黒ではなく真っ白な格好で現れる。
コンラッドは死ぬことで償いをし、自分たちに罰を与えたと語る夫人に、母のことは信用してはダメと告げるリエッタ。
再び孤独になった教授の耳には上の階で歩く誰かの足音が聞こえる。最後に目をつぶった教授は、自分で話した本の内容通りに死に連れ去られてしまったのだろうか。
色々と感情を揺さぶられる内容だったのと、コンラッド役のヘルムート・バーガーの容姿の美しさに見とれてしまう作品だった。