「血筋が見せる狂気。」8月の家族たち ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
血筋が見せる狂気。
劇中で夫ユアンが妻ジュリアに向かって言う、
「…ムカつくんだよ!」の一言が、まさしくこの作品のすべて。
戯曲の映画化は容易に想像がつくし、今までこんな展開は数多く
描かれてきたが、本当にアチラの家族ってのはここまで罵り合う
ものなのか?と不思議に思う。歯に衣着せぬとは聞こえがいいが、
思ったことをズケズケと言うのは単に抑えの利かない子供である。
メリル演じる母親はまさにそのタイプで、但し癌を患っているのと、
数多く処方された薬の副作用であることもあとで分かってくる。
でもどうだろう。のちに彼女が娘に告白する自分の母親の性格と、
長女のバーバラ、伯母のマティ、更にはバーバラの娘・ジーンにも
その片鱗が見え隠れしている。こうなれば血筋だ、血は争えない。
あー可愛くない。そりゃ浮気もされるか。夫達は揃って気が弱い。
おそらくは、黙って、耐えて、言うことを聞いてきたんだろう。
オトコから見れば最悪のオンナである。対して頭の悪そうな(失礼)
次女、三女は、変なオトコを好きになる。従兄弟?と、薬中?しかし
そんな問題では済まされない。後半で驚愕の秘密が明かされる。
元はS・シェパード演じる父親の失踪・自殺が滅多に逢わない家族を
引き合わせた。其々が秘密や悩みを抱える中、長女は夫の浮気と娘の
反抗期に悩んでいる。面白いのは母親が長女に言う苦言が、そのまま
長女から娘へと注がれること。これぞ悪循環!といえるほどの相似力。
嫌で嫌で堪らないその性格に自分で気付いているだけに、長女は辛い。
葬儀後の席で口汚く皆を罵る母親を前にしてついに長女の怒り爆発!
この取っ組み合い(薬を取り上げるための)が、これまた凄い^^;
だけどね、どんなに爆発してもこのおねいちゃんは、ちゃんと長女と
しての務めを果たそうと働いてしまうのだ。実家に残って親の介護を
しなかったことの負い目からか、次女や三女に対してもそうとう甘い。
家族の問題が、すべて長女に向けて覆い被さってきて辛い最中でも、
母親は長女に容赦しない。娘に頼りながら毒舌を浴びせ続けるのだ。
あーもう勘弁してくれ。と思った。メリルが自分の母に思えてきた。
他人はおろか、愛する家族まで口汚く罵る行動に出る人間の本意とは
一体何なのだろう。誰の何がどこがそんなに耐えられないのだろうか。
憂さ晴らしで罵られるなんて本当にご免、いい加減にしろ!である。
メリル、ジュリア、はもちろん、オールスターキャスト万全の演技。
ラストのジュリアの表情と向かう先には光明あれよ…と祈るばかり。
(次女も悲惨だわ、可哀相すぎ。あそこじゃ恋もできなかったろうにね)